「……でも、知りたいの。ちゃんと、すべてを知らないといけない気がする。じゃないと、私は」
その言葉に、アグレイスは小さく笑った。
「なら、一緒に進もう。君だけに背負わせるものじゃない。妃である前に、君は“セレナ”。俺の唯一愛した女性なんだから」
アグレイスの手が、彼女の肩にそっと触れたその時――ドン、と地響きのような衝撃が、王宮の地下から響いた。
「な、何!?」
「……地下礼拝堂の結界が、強制解除されました!」
魔術師団の一人が声をあげる。
その場所は――王家の一族でさえ、ほとんど足を踏み入れることのない、封印の聖域だった。
(まさか……)
セレナは先ほどの本の一節を再び思い出す。
“聖銀の乙女は、鍵を開ける”――。
その“鍵”が、今まさに開かれたのではないか?
「アグレイス、行かなくちゃ。何かが、目覚めてる」
「……わかった。だが君ひとりでは行かせない」
二人は即座に準備を整え、地下礼拝堂へと向かう。
けれど彼らがまだ知らぬところで、地下の奥深くに隠された古の封印が、ゆっくりと崩壊を始めていた。
それは、ただの“古代の呪い”などではない。世界そのものの理(ことわり)に触れる、“禁忌”の力――。
そして、礼拝堂の最深部。黒い石板の前に、既に一つの影が立っていた。



