「セレナ。君が見たもの、話してくれないか」
アグレイスが、静かに彼女の手を取った。
その手のひらには、まだわずかに封印書から受けた魔力の痕が残っている。
「……ごめんなさい。勝手に、封印区域に入ってしまったの。
でも、あの本が……わたしを“呼んだ”の」
その言葉に、周囲の魔術官たちがざわついた。
だがアグレイスだけは、何も言わずにセレナを見つめ続けた。
その瞳に宿る深い青は、彼女を責めるものではなかった。ただ、彼女の“選択”を受け止めようとしている。
「君の中で、何かが目覚めている。……君自身の意思では止められないものが」
「怖いの。アグレイス、わたし、自分が何者なのか、本当にまだ全部知らなくて……」
セレナの声は震えていた。自分の内に眠る“なにか”が、扉を叩いている。
それが自分なのか、それとも“自分ではない何か”なのか――まだ境界線さえわからない。



