「無理をなさらないでくださいね。ご体調が良くても、冷たい風は侮れませんから」
セレナはこくりと頷きながら、スプーン一杯の薬を口に含んだ。
少し苦い味。けれど、それにもすっかり慣れていた。
この修道院に来てから十年近く。
彼女は一度も王都に戻ることなく、季節の移り変わりを静かに見つめながら過ごしていた。
「セレナ様、また花壇を整えてくださったのですね。スノードロップが咲き誇って……」
「ええ、朝のうちに少しだけ。咲いてくれるのを、待っていたから」
庭の片隅。春の名残を咲かせる白い花々を前に、セレナはそっと指先を伸ばした。
彼女は政のことも、国の情勢も知らない。ただ、ここで生きる人々の優しさと、村の子どもたちの笑顔を守りたいと思っていた。



