「誰かが意図的に封印を解こうとしている」
呟いたその瞬間、背後にかすかな足音がした。
「アグレイス様……お待ちしておりました」
灯りの差さぬ暗がりに、長衣の男が姿を現す。
老齢のその男は、王家に代々仕える記録官、〈灰の書吏〉と呼ばれる存在だった。
「お前が記録してきた“銀月”の末裔――今、彼らは王国のどこに潜んでいる?」
アグレイスの問いに、老書吏は目を伏せたまま、静かに口を開く。
「……彼らは北の外れ、〈幽都グラナ〉の地下にいまだ封印されております。
しかし、完全な封印ではありません。血が呼び合えば、再び動き出す」
「“血が呼び合う”……?」
老書吏の声が、かすかに震えた。
「それは、“番”の力に対する拒絶です。
もし、この王国に〈銀月の血〉と“番の力”が同時に存在するなら……」
アグレイスの中で何かが繋がった。
(――セレナ……? まさか、彼女の中にも……)
その思考を断ち切るように、記録官が低く続けた。
「近く、この国で“血の共鳴”が起こるでしょう。
あなたの子が、それを引き金とする可能性も、否定できません」
アグレイスの拳が強く握られた。
守らなければならない。
愛する者を。
この王国を。
そして、これから生まれてくる命を。



