式が終わった後、姉がセレナのもとへ近づいてきた。
「おめでとう……神獣の番、なんて、思ってもみなかったわ」
その声は乾いていて、どこか棘を含んでいた。
だが、セレナはそれにも静かに笑って言った。
「ありがとうございます、姉上。……でも、私はただ、選ばれただけ。立派なことは、なにもできていません」
「……ふん。謙虚で結構。でも、これからは“選ばれた”にふさわしい態度を忘れずにね」
それだけ言うと、リディアは背を向けて去っていった。
その背中には、確かな焦りと悔しさが滲んでいた。
その晩、セレナのもとには、またアグレイスが現れた。
今度は人の姿に近い――長い銀髪と、静かな金の瞳を持つ青年の姿で。
蒼銀の獣ではなく、“彼”としてそこにいた。
「……あなた、今の姿は……」
「わたしは人ではない。だが、おまえと並ぶための形は選べる」
その声は変わらず、心の奥に響くような温もりを持っていた。
「これから、そなたの傍にいる。おまえを守る。それが、わたしの“選び”だ」
セレナはその姿に、頬を赤らめた。
胸の鼓動が、明らかに速くなっていた。
神獣としての威圧感ではない。男としての――優しさと誓いの重さに、少女の心が揺れていた。
(こんなふうに、誰かに必要とされるなんて)
そう思った瞬間、彼女の胸の奥に、知らぬ間に植えられていた“感情の芽”が、そっと息を吹き返した。
それは、まだ名前もつけられない、小さな“恋のきらめき”。



