「ねえ、その力……私たちの子にも、影響するかもしれない?」
問いかける声はかすかに震えていた。
アグレイスは一歩前に出て、彼女の手を包み込んだ。
「――させない。何があっても、君とこの子は、僕が守る」
その言葉は、静かだが確かな決意に満ちていた。
セレナの瞳に、光が宿る。
(そうだ。私ひとりじゃない。私たちは、共に在る)
風が止み、空の雲がゆっくりと流れた。
この穏やかな朝が、嵐の前の静けさだと知る者は――まだ、いなかった。
王城地下、北棟にひっそりと佇む石造りの回廊。
その最奥に存在する扉は、王族にすら滅多に開かれることのない“禁書庫”と呼ばれる場所だった。
アグレイスは重い扉を押し開け、ほの暗い空間へと足を踏み入れた。
厚く積もった静寂と埃。
天井近くまで並んだ古文書の山。
どれもが歴史に埋もれ、忘れ去られた真実たちだ。



