静かな夜。
ひとつの命が、ふたりの絆をより深く結びつけた。
――そしてその命こそが、この国の新しい夜明けの象徴となるのだった。
朝の陽光が差し込む回廊を、セレナはゆっくりと歩いていた。
静かな城内の空気が、どこか張り詰めている。
アグレイスが告げた「報復の火種が南の貴族の間に広がり始めている」という一言が、胸に重く残っていた。
(戦は終わったはずなのに……終わりじゃない。むしろ、これからなのね)
城下の復興が進む一方で、王国の内部――特に古い貴族たちの一部では、今回の戦に対する不満と「妃の出自」に対する疑念が燻っていた。
彼女の家は辺境の小領主。
王妃としての「血統の重み」がないと見なされる声が、水面下で囁かれていた。
「……セレナ様」
声に振り返ると、侍女のエリナが緊張した面持ちで頭を下げた。
「政務会議の貴族たちの一部が、“ご懐妊された妃に外交権限はない”と、御前会議の発言権を制限する案を提出しようとしております」
「……それは、正式に?」
「まだ動議の段階です。ただ、筆頭侯爵家のバルテリウス卿が関与しているようで……影響力は小さくありません」
セレナは静かに息を吸い込んだ。
自分の妊娠を知って尚、攻撃材料として使われるとは――。
(この子の命を喜ぶ人々がいる一方で、命を“道具”として扱う人もいる)
その現実が、悔しくてたまらなかった。
だが――逃げるわけにはいかない。



