「物価高騰の原因の一つに、特定の商会による買い占めがあります。これを抑制する条例案を――」
「法の見直しは陛下の専権事項です」
すぐさま遮られる。けれど、セレナは退かなかった。
「だからこそ、陛下に正式に提案いたします。そのための文案も、私が責任を持って準備いたします」
静まり返る室内に、軽くざわめきが起こる。
これまで“象徴”として扱われていた妃が、初めて政治の場で意志を示した瞬間だった。
会議を終えた後、セレナは一人、回廊に立っていた。
手に握るのは、書きかけの文案。
けれど、それよりも彼女の胸を支配していたのは――孤独だった。
(私の声は、届いているの……?)
そこに、柔らかな足音が近づいた。
「セレナ」
振り向けば、アグレイスが立っていた。
彼の顔を見た瞬間、張り詰めていた心が一気に緩むのを感じる。



