人々の表情に、ほんの少しの変化が生まれ始めた。
疑念ではなく、困惑でもなく、慎重な信頼の兆し。
やがて、農夫、洗濯女、学び舎の教師……次々と声があがった。
言葉は拙くても、そこには確かな「生」があった。
セレナは一つ一つに耳を傾け、言葉を返し、必要があれば側近に記録させた。
その姿は、妃というより「隣人」のように見えた。
その様子を、離れた建物の影からアグレイスが見守っていた。
「……やはり、彼女は“民の妃”となる」
側にいたリディアが、静かに呟く。
「民に跪く姿を“弱さ”と見る者もいるでしょうね。でも彼女は、誇りを捨ててはいない。守るために、背を低くしているのです」
アグレイスは微笑む。
「それは、誰よりも強いということだ。セレナは……間違いなく、この国を変えるだろう」



