一方、王宮内はざわめいていた。
神獣が現れたという事実だけでも異常事態なのに、それが“第二王女”にだけ反応を示したというのだ。
姉・リディアは、その報せを聞くと、ワイングラスを強く握りすぎて、中身をこぼした。
「ふざけた話ね。どうせ気まぐれか……あるいは、誤りよ」
表向きは微笑を崩さず、内心では嫉妬と怒りを噛み殺す。
王宮で最も才色兼備と謳われた第一王女が、“見向きもされなかった”という屈辱を受け入れるには、あまりにもプライドが高すぎた。
その夜。
セレナはまた、あの神獣の気配を感じていた。
――外に、いる。
根拠もなく、けれど確信めいた直感が胸に浮かぶ。
軽く外套を羽織り、静かに寝室の扉を開けると、冷たい夜風が吹き抜けた。
中庭には、やはり彼がいた。
銀と蒼の神獣――アグレイス。
獣のような姿でありながら、どこか人に近い理知を宿した存在。
「……また、来てくれたのですね」
セレナがそっと呟くと、アグレイスはゆっくりと彼女のもとへ近づいてきた。
彼の金の瞳が、まっすぐにセレナを映す。
『名を、呼んでくれ。おまえの声で』
その声は、また心の内に直接届く声だった。
セレナは少し戸惑いながらも、唇を動かす。
「……アグレイス」
『……それだ。よく、覚えていてくれた』
「え……?」
その言葉に、セレナは思わず目を見開いた。
“覚えていた”? まるで、以前どこかで会ったような言い方だった。



