数日後、王都で食糧価格の急騰に対する不満が一部で広がり、民が広場に集まり始めたという報告が届く。
「セレナ様、どうなさいますか?」
執務官が問いかける中、セレナは迷いなく答えた。
「私が直接、話を聞きに行きます」
「し、しかしそれは危険が……」
「だからこそ、私が行かなければならないのです。王妃としてだけじゃなく、この国に生きる一人として」
その言葉に、アグレイスは驚きながらも目を細めて微笑む。
「本当に、強くなったな。……無理はしないで」
「ううん。今度は、一人じゃないから。あなたがそばにいるもの」
彼女の瞳には、確かな決意と信頼が宿っていた。
(私はこの国の王族であり、民のひとり。どちらも、私なのだから)
それは、セレナが初めて妃として自分の足で立ち、行動する決断だった。
彼女の背に吹く風は、もうただの春風ではない。未来を導く意思の風だった。



