「この庭……昔、ふたりで来たこと、覚えてる?」
リディアの問いに、セレナは少し驚いたように目を丸くする。
「……うん。姉さまが、花かんむりを作ってくれたの。私、それがすごく嬉しくて……」
「ふふ、あなた、あの頃から泣き虫だったわね」
笑みを浮かべたリディアの声は、やわらかく、それでいてどこか震えていた。
ふたりのあいだに、懐かしい沈黙が流れる。
「……私はね、セレナ」
しばらくして、リディアがそっと口を開いた。
「ずっと、“選ばれなかった”ことを、受け入れられなかったの。妹に、番妃の座を譲られるなんて、恥ずかしいことだって、どこかで思ってた」
「……姉さま」
「でも、それは違った。恥ずかしかったんじゃなくて――悔しかったの。……自分が、あなたに、追い越された気がして」
その言葉に、セレナの胸がきゅっと締めつけられる。
「私ね、子供の頃から、姉さまが大好きだった。綺麗で、強くて、頭が良くて。……姉さまみたいになれたらって、ずっと思ってた」
「……セレナ」
「でも、姉さまの目の中に、私が入ることは、ほとんどなかった」
言葉が、止まる。
風が、木々の葉を静かに揺らしていた。
やがて、リディアが顔を伏せた。
「……ごめんなさい」
それは、姉としてではなく――ひとりの人間としての、初めての謝罪だった。
「私は、あなたのまっすぐさが、うらやましかった。誰かを疑わずに信じられるあなたが。……私は、自分が勝っていると信じ込むことで、ようやく自分を保ってたの」
「……姉さまも、苦しかったんだね」
セレナが、そっと手を伸ばす。
リディアの手に、やさしく重ねられたそのぬくもりに、リディアの目に再び涙が浮かんだ。
「私ね、姉さまに認めてもらいたかったの。ずっとずっと、愛してもらいたかったの。……でも、今なら分かるの。姉さまは姉さまなりに、私を見てくれてたって」
小さな声で、セレナが告げる。
「……ありがとう。今日、呼んでくれて」
「……私のほうこそ。あなたが、私の妹で良かった」
ふたりの手は、そっと強く握り合う。
涙はこぼれても、もうそこに悲しみはなかった。
白花の庭に、夏の光が差し込む。
姉妹の絆が、ふたたび繋がれた朝。
その光は、未来へとつながる第一歩だった。



