「安藤、安藤寧色」


意識が起きたとき、誰かに呼ばれていた。

ゆっくりと目を開けると、ぼやけた視界の中に、全体的に灰色っぽい風景が見える。


なんか、動きづらい。



寝返りを打とうとして、上手く動けない。


「安藤? 起きたか?」


周様?


先ほどから呼びかけていた声が周様だと気づいた。

それと同時に、ぼやけていた目がはっきりと見えるようになって、謎の廃倉庫みたいな場所にいるのが分った。


「あれ?」


わたし、なんでこんな所に?


目をぱちぱちさせるが、景色は変わらない。

動かそうと思っても、手や足が全然動かない。


見えないけど、縛られている?


不思議に思っていると、背中側から声をかけられる。


「安藤、お腹を下にして寝返りを打ち、こちらを向け。頭はあまり動かすなよ」


難しい注文だ。
頭を硬そうな地面に付けないようにして、ゆっくり、お腹を下にして、寝返りを打つ。

すると、そう遠くない所で椅子に座った状態で縛られている、周様が見えた。


「周様⁉︎」


これはいったい、どういうこと?


「誘拐されたんだ。キミも一緒にな。頭を殴られていたが大丈夫か?」

「言われてみれば、痛いかも?」


いつもより、頭が重い気もする。


「手当はされていたが、脳しんとうは起こしているだろう。もしかしたら骨折しているかも知れない、動く時は気を付けろ」


えっ、怖い事言わないで欲しい。

それにしても、そっか、誘拐されたんだ、わたし達。


えーー、悔しい!


誘拐が防げなかったの、すごい悔しいし情けなく思う。

わたしは、周様を守るためにメイドやっているのに‼︎


……でも、わたしも一緒に誘拐されているのは、不思議だ。

手間だろうに、なんでわざわざ連れてきたんだろう。