わたしが立ち上がり、ステージに行くと、一部の人がざわざわ、こそこそしだした。
周様のメイドだって、分かっている人だろうな。
気にしていられないので、礼をする。
「一年二組、安藤寧色です。披露するのはピアノ。演奏させてもらう曲は「失礼、遅れました。ああ、ちょうど良いタイミングだったようだ」
突然ドアを開き、わたしに被せて喋ったのは、周様だった。
え、周様なんで!?
音楽室の中で、女の子の黄色い声が上がる。
みんなが驚く中、周様はわたしの隣に来た。
いつもと変わらない、クールな顔で話し始める。
「披露するのは、即興の連弾です。彼女の演奏に私が合わせます」
え……?
どういうこと!
って、聞きたいけど、ちらりとこちらを見た周様は有無を合わせない感じだった。
ピアノの前に、もう一つ椅子を持ってきてもらうと、周様は隣に座った。
「後で説明しろ」
わたしへの声は、いつもより低い。
怒っているんだろうなぁ。
迷惑かけるなって言ってたのに。
「はい……」
「弾ける中で一番練度の高い曲を弾け。メドレーにしてもいい」
「かしこまりました」
小声でやりとりをして、わたしは鍵盤に指を落とす。
今までの出演者は、クラシックが多かったので、クラシック曲。
パーティーのオーディションとのことだから、華やかなこの曲に決めた。
ショパン、華麗なる大円舞曲。
楽譜が無いのは不安だなぁ。
制限時間は五分だから、繰り返しの部分を一部省こう。
入りの、華やかなファンファーレを弾いたところで、何の曲か分ったのか周様も鍵盤に指を走らせる。
華やかな旋律に合わせて、どっしりとした土台のような低音を合わせる。
かと思ったら、わたしに合わせながらも別の人も踊っているような、華やかな響きを演奏して、曲に厚みを加える。
すごい、周様。
知っている曲だとしても、突然なのにちゃんと弾いてくれる。
時には、わたしの左手とクロスするようなことがあるけど、わたしの手の邪魔になることはない。
曲が半分を過ぎたところで、不思議な事に周様の演奏が少しゆっくりになった。
遅いってほどではないけど、どうしたんだろう?
何か考えがあるのかと思って、スピードを合わせる。
そのまま弾いていき、あと少しで終わるってとこで、──ピピピピ
タイマーが鳴った。
「ああ! 制限時間が過ぎてしまった」
あ、これわざとやったのか。
わざとらしい、周様っぽくない悲しんだ声を出すからか気がついた。
立ち上がり、審査員に向かって頭を下げる。
「すみません、時間管理出来ていませんでした」
「遅れてきたのに、すまない。私達には早かったようだ。でも、参加させてくれてありがとう。失格なのに居座るのも迷惑だから、失礼するよ」
「失礼します!」
畳み掛けるように告げた周様に続き、わたしはもう一度頭を下げ、音楽室を出る。



