「嗣永。寧色を頼んだぞ」
「かしこまりました」
曾お爺さまがリムジンに戻ったので、ドアが閉まる前に声を掛ける。
「一緒に来てくれてありがとうございました、曾お爺さま」
「気にするでない。寧色の保護者に、ちゃんと迎えに行くと約束しておったからな」
曾お爺さまは、マザーと約束したからって言うけど、もう八十? 九十? の曾お爺さまが、何時間も車に乗ってきてくれたなんて、本当に優しい。
もう隠居しているって言ってたけど、まだまだ忙しいって、曾お爺様の秘書さんも言っていたのに。
「時間が合ったら、一緒にご飯でも食べよう。それじゃあの」
ドアが閉まり、リムジンが発車する。
見ているかは分らないけど、手を振って別れを告げる。
リムジンが見えなくなった所で、リムジンに向って頭を下げていた執事長さんが、頭を上げてわたしを見た。
「改めまして、宮条家の執事長の嗣永です。安藤寧色さんですね」
執事長さんは、どんな細かいことにも気づきそうな目で私を見るから、背筋が伸びる。
「はい」
「メイドとして仕える為に、この家に来た。間違い有りませんか」
わたしを見定めるように、静かながらも迫力のある声で言われる。
それに負けないように、まっすぐ見上げ、気合を入れて答える。
「間違いないです!」
ジッと見つめてくる執事長さんから目を逸らさないでいると、十秒後くらいに目が少しだけ優しくなる。
「わたしの事は、執事長と呼ぶように。先ほどは他に人がいなかったのと、ご隠居様が気になさってないので不問にしますが、宮条家の人には頭を下げるように。良いですか?」
「はい」
「では、部屋を案内します」
執事長が、ドアを開け館の中へ入れようとしたところで、
「彼女が新しいメイドか?」
後ろから声が掛けられた。



