掃除道具を持って来て片付けていると、学習室に律果先輩が来た。
「授業、終わったんですか?」
怒られるかもと、恐る恐る伺うわたしに、律果先輩は冷めた目で言う。
「まだ。こっちの様子見に来ただけ。で、さっきのは何が有ったんだよ」
「換気の為に窓を開けて紅茶を取りに行ったら、風により紙が部屋の中で飛んでいたので慌てて部屋に入ろうとして、ワゴンを倒しました。申し訳ございません」
頭を下げたわたしに、律果先輩は深くため息を吐く。
そして、周様に話しかけるのとは違う、ぶっきらぼうな言葉で尋ねてくる。
「紙は濡らしたの?」
「大丈夫でした」
「あっそ。絨毯はクリーニング行き。机やソファは……」
律果先輩はしゃがんで、自らの目で家具の様子を確認する。
「大丈夫そう。カップやポットは、割れた?」
「全部割ってしまいました」
その言葉に、面倒くさそうにため息をつく。
「あれ、周様のお気に入りなんだけど」
「えっ、そうなんですか⁉︎」
どうしよう。
この家にある物は、一つ一つが綺麗で、高級品っぽいから、あれもきっと凄く高い。
その中のお気に入りだなんて、誠心誠意謝らなきゃ。
決心したわたしに律果先輩は言う。
「安藤、換気はなんでしたの?」
マニュアルにはなかったでしょと、立ち上がった律果先輩は続ける。
「必要かと思って」
その瞬間、厳しい目を向けられる。
「この部屋は二階で窓の外は中庭だけど、それでも防犯的に、窓を開けたまま部屋から居なくなるのは言語道断なんだよ。勝手なことすんな」
「申し訳ございません」
深く頭を下げる。
そうだ。ここは、すごくお金持ちの家。
田舎では換気は大事って言われていても、ここでは同じ気持ちでいちゃいけない。
「オレ、お前に何にもするなって言ったよね」
「はい」
「いい? 今のお前は、本当に言われたことだけやって、自分で考えて行動しないで。例え、周様がペンを落としたとしても拾いに行くな」
「……落ちた物を拾いに行くのも、何かすることになるんですか?」
それじゃあ、律果先輩みたいには、いつまで経ってもなれない。
律果先輩は、圧のある目でわたしを見つめる。
「今のお前は入るよ。なんでお前がメイドになったのかは知らないけど、無駄に頑張ろうとか思わないで。何もしなくて良いから」
そんなこと言われても、
「わたしは頑張りたいです!」
わたしがメイドになったのは、超能力を誰かのために使いたかったから。
だから、周様の側に居たいけど、側に居るなら信頼されて、一緒に居たいって思われる様になりたい。
そのためには、頑張らなきゃいけないと思う。
「今のお前は、迷惑かけるしかできないでしょ。頑張って迷惑かけるしか出来ないなら、帰って」
この帰っては、来た場所に帰れってことだ。
……マザーには、いっぱい反対されたけど、それでも頑張るって出てきたんだ。
こんなすぐに帰るなんて、出来ないし、したくないよ。
「……帰れないです」
「じゃ、大人しくしてて」
律果先輩の言葉に、頷くしか出来なかった。



