だから悔しいけれど、ぼくは少しだけ、本当に少しだけだけれど、奴を理解することができる。同情さえする。
ぼく自身がもう姫さまを守れないとあっては、奴に一縷の望みをかけるしかなかった。
こんな日は。
「お屋敷に戻っても……グラント将軍とどうお話ししていいかわからないわ……。ねえ、ルーク、どうしたらいいと思う? どうしたら好いていただけるかしら? あなたがいつもグラント将軍に厳しかったのは、どうして?」
姫さまは、ぼくの墓標にそう問いかけた。
──どうして?
決まっている。姫さまはまだ十六歳で、奴はもう三十五歳で、姫さまをひと目見ただけで首ったけになったくせに、それをまともに表現できないような無骨者だからだ!
やれ「君はまだ幼すぎる」だの、「俺はずっと軍人として生きてきた。君のような女性に優しくする術がわからない」だの、御託を述べてはいるが、そんなことはどうでもいい。
姫さまには愛情が必要なんだ。
ぼくが、いつもあげていたような、真っ直ぐな愛情が。
奴はそれができないから、いつも怒りを感じていた。ときには嫌悪をあらわにし、姫さまのそばから追い払ったことさえある。
姫さまはまだ、ぼくの墓標の前でしょんぼりとしていて、丁寧に花束を並べたり、地面に生えはじめた雑草を抜いたりしている。
空の遠いところではゴロゴロと雷鳴がとどろき、重く垂れこめた灰色の厚い雲が、ゆっくりとこちらに近づいてきているというのに……姫さまはまったく気づかない。
多分、気づいていても、その重大性があまりわかっていない。
姫さまには生活力というものが絶望的になかった。
「涼しくていい風ね。少し、ここでお昼寝しようかしら」
姫さま! だから……!!!
どうしてそういう発想になってしまうんですか!
ルークだった頃なら、ここで彼女を急かして屋敷に連れ帰った。でも、蝶になったぼくになにかできるだろう?
慌ててひらひらと目の前で舞ってみるものの、姫さまは「ふふ」と可愛らしい微笑を浮かべて、本当に寝そべってしまう。
その儚い微笑みは本当に可愛らしくて、大抵の者はここで「姫さまだからしょうがない」と甘やかしてしまう。そのせいで姫さまはあまりにも籠の鳥すぎた。
愛らしいけれど、ひとり外では生きていけないモノ。
姫さまの寝つきがいいことを、ずっと床を共にしていたぼくはよく知っている。案の定、姫さまはすぐにすやすやと安らかな寝息を立てはじめた。
ものの数分もしないうちに、霧雨が大地の緑を濡らしはじめる。
人間を吹き飛ばすほどの強い嵐になるのはきっとあっという間だ。


