君を愛する蝶になる〜その忠実な騎士はいつまでも姫のそばにいる〜

「グラント将軍……わたし」
「いつも君を守っていたルークを失って悲しんでいるあなたを……慰める権利を……俺に与えてくれないだろうか」
「そんな……」
 姫さまは、そのいつもは赤く色づいて可愛らしい唇を紫に染めて振るわせ、小さく小さく、ぼくにしか聞こえない声で「滅相もないです」とつぶやいた。

 グラント将軍には聞こえなかったのかもしれない。

 長く前線にいたせいで、この男は少々耳が悪いと聞いたことがある。あまりにも大砲の音を聞きすぎたせいで、鼓膜がやられてしまったのだとか。
 耳のよかったぼくが、この男より早く不審者の侵入に気づいて、姫さまを銃弾から守ることができたのもそのせいだった。

 グラント将軍は「そんな……」の部分しか聞こえなかっただろうから、姫さまに拒否されたと結論づけたのだろう。
 諦めのため息をひとつ長く吐いて、きつく囲っていた抱擁から姫さまを解放した。

「遅かれ早かれ、あなたは俺の花嫁になる。それをお忘れなきよう」

 グラント将軍は告げた。
 ばかやろう。
 この男はいつもひと言足りないか、ひと言余計なんだ。姫さまが好きでたまらないくせに。
 生まれたときから姫さまの側を離れず、彼女を守ってきたぼくは知っているんだぞ。

 案の定、グラント将軍の告白を脅しの一種と勘違いした姫さまは、一度は止まったはずの涙をまたこぼしながら、小さくうなずいた。
 ぼくは姫さまの肩を離れなかった。