さらりと口にされた男の言葉は、そのとき吹かれたそよ風によって、それこそ蝶のようにあたりを舞った。

 姫さまはぼくの墓標からふらりと立ち上がろうとして、よろめく。ぼくは今までみたいに姫さまを助けたかったが、蝶の姿でできることはなく。
 ぼくの代わりに、男が素早く腕を伸ばした。
 姫さまはがっしりと男の腕に抱かれて、転倒をまぬがれた。

「あ……グラント将軍」
「あなたはそうやって、いつまでも俺のことを怖がっている」
 男──グラント将軍──は姫さまを抱きしめて、彼女の首元に唇を近づけた。姫さまがまた「あ……」と切なくささやく。

「俺があまり感情の豊かでない人間なのは認めます。俺は愛の詩を紡ぐような男ではない……しかし、そうやって怖がられるほど、恐ろしい男でもない」
 グラント将軍のいかめしい表情にはあまり説得力がなかった。たぶん、奴自身、それを自覚しているのだろう。
 最後に静かに付け加えた。
「……おそらく。少なくとも、そうでありたいと思っている」