丘の上にひっそりと立てられたぼくの墓標にすがっている姫さまの背後に、背の高い軍服姿の男が立っている。
 金のタッセルと正肩章の輝くご立派な服装のこの男のことを、ぼくは半年ほど前から知っていた。
 ──そして嫉妬していた。
 この男こそが、ぼくから姫さまを奪っていってしまう張本人……。姫さまの親が決めた、姫さまの婚約者だからだ。

 王立海軍の偉い将軍だというこの男は、そのご立派な戦歴と功績を姫さまの両親に認められ、姫さまの婚約者に抜擢されるという名誉にあずかっていた。
 しかし、なにが不満なのか、この男は姫さまの前でいつもいかめしい顔をしてばかりで、姫さまを怖がらせている。

「はい……。ご、ごめんなさい……お恥ずかしいところを……お見せして」
 姫さまは謝った。
 謝る必要なんてないのに! でも姫さまは、この男がいるといつもこうだ。頬を赤く染めて、うつむいて、しどろもどろになる。
 ぼくといるときの姫さまは、とっても元気で、素直で、朗らかなのに。

「謝る必要はありませんよ」
 少なくとも、この男にはそう答える良識があった。「悲しいのは当然でしょう。あなたとルークは、本当に仲がよかった」

 ぼくはふわりと舞って、姫さまを守るように彼女の肩に降り立つ。

 生きていた頃ずっとそうしていたように、ぼくはこの男を威嚇したかった。
 ぼくの使命は姫さまを守ることで、そのためにぼくは、ぼくのできるあらゆることをしてきたつもりだった。姫さまのために、銃弾を受けることさえいとわず。

「わ、わたしを……浅はかな女だと思われますか……?」
 と、姫さま。
「いいえ。嫉妬は感じますが」
 と、男。

「もし俺が任務のために命を落としても、あなたはそんなふうには泣いてくれないでしょうから」