「ルーク……ごめんなさい。わたしなんかを守るために。うぅ……っ」

 泣かないで、姫さま。
 ぼくはそう伝えたかった。姫さまの可愛らしい水色の瞳から、たくさんの悲しみが流れている。名前を呼ばれたので、ぼくのことを思って流してくれている涙だと気がついた。

 ぼくは三日前の朝までそうできたように、姫さまの隣に寄り添って、頬を近づけ、優しい声で慰めてあげたかった。
 でも蝶になったぼくにはできない。

 ひら、ひら。
 ぼくは飛んで、大好きだった姫さまの金色の髪の周りを、ティアラを形どるように旋回する。しばらく続けていると、姫さまは涙に濡れた顔を上げた。

「蝶々……? きれいね……慰めてくれているの」
 ほんの一瞬でも姫さまに安らぎを与えてあげられたことに満足を覚えて、ぼくはひときわ大きく翼をはためかせた。
 でも、
「きれいだわ……ルークにも見せてあげたかった」
 と、また顔を伏せて泣いてしまうのだった。
 心の優しい姫さまは、まだぼくの死から立ち直れないでいる。ただ君を守るための護衛にすぎなかったぼくのために。

 でも、知ってほしい。ぼくらはたしかに愛し合っていた。身分違いのこの想いは、決して実ることはないとわかっていたけれど、それでも間違いなくここにあった。
 ここに……ぼくの胸の中に。
 それは命を落とし、蝶になった今でも変わらない。変われそうになかった。だって姫さまはこんなに愛らしい。そして優しい。他にこんなひとはいない。

「泣いているのですか、アイリーン姫」

 声が。
 低くて少し威圧的な、男の声が。聞こえて。ぼくは動きを止めた。姫さまもびくりと体を硬くして、涙を止めた。