⋅.˳˳.⋅˙ॱᐧ.˳˳.⋅ઇଓ ࣪˖ ִֶॱ⋅.˳˳.⋅˙ॱᐧ.˳˳.⋅ઇଓ
アイリーンは寒さに震えていたはずだった。
太い雨が矢のように激しく降り、横なぶりの強い風が大地を舐めとる。アイリーンのいささか体重の足りない華奢な体はすぐに吹き飛ばされて丘を転がり、水嵩を増した川に飲み込まれるところだった。
(ああ……ルーク……。お父様……グラント将軍……)
生まれてこのかたずっとルークとベッドを共にしていたアイリーンには、彼のいない夜が寂しすぎたのだ。
だから彼の墓標の隣にやってきて、束の間の安堵を感じて、ついうとうとしてしまったのだと思う。それはとても愚かなことだったのに。
風に吹き飛ばされて転がったアイリーンは、川縁から這いあがろうとして足を滑らせ、冷たい濁流に押し流される……はずだった。
そこに、グラント将軍が現れる。
当然ながら、彼もずぶ濡れだった。艶やかな黒髪がぴたりと肌に張りついて乱れ、息は荒く、いつもの厳つい表情はそこにはなく、なにかを切望する瞳で取り乱すようにアイリーンの名前を叫んだ。
「アイリーン! 行くな!」
急斜になった川縁までの芝生を、グラント将軍は長い足を片方前に出して滑り下りてきた。それは水鳥が水中の獲物を獲りに急降下するような素早さで、アイリーンは圧倒される。
思わず、流されないために掴んでいた水草から手を離してしまうところだった。
グラント将軍はさらになにか叫んだ。それはもう、ひとの言葉ではなかったと思う。


