誰にも言うなよ ~結婚式の後始末~

「小さな頃、サーカスが近くに来たことがあって。
 サーカスのテントを見ながら、実里さんが言ったんですよ。

 あんたも下手したら、あそこに売られるところだったのよ。
 余計なこと言ったら、今からでも売るからねって」

「……どんな脅しだ」

 だが、ほたるはしみじみと思い出していた。

「実里さんは私の手を引いて歩きながらそう言って、本屋の近くのお茶屋さんでアイスクリームおごってくれました。

 知り合いの店で服を買い過ぎたの、私に見られて。
 それを小日向先生に黙ってて欲しかったらしいです」

 いろいろサーカスに売られたときのことを想像して怖くはあったが。

 実は、結構いい思い出だ。

 実里と二人で出かけることなんて、そんなになかったからだ。

 ちょっとお化粧品の匂いのする綺麗な実里の手で、ぎゅっと手を握られ。
 少し緊張したのを今でも覚えている。

 明巳は咳払いし、
「そのサーカス、同じ場所に来たのかは知らないが。
 お前のばあさんちの近くに来てるらしいんだ」
と言う。

「まあ、お前はときどき帰ってるみたいだから、特に帰らなくてもいいのかもしれないが……」
とごにょごにょと付け加えた。

「行きたいですっ」
とほたるはすぐに返事する。

「確かに、おばあちゃんち、たまに覗きはするんですけど。
 いつもちょっと顔出して帰るだけなんでっ」

「……俺と一緒で大丈夫か?」
「はい」

 なんでそんなことわざわざ訊くんだろう、とほたるは思った。