「ただいま帰りましたー」
その日、ほたるが帰ってくると、明巳はあの天井からぶら下がる手のところにいた。
部屋に入ろうとすると、明巳が言う。
「日曜暇なら、サーカス観に行かないか?」
唐突なその言葉に、振り返ったほたるは、明巳の顔を見たものの沈黙した。
やがて、明巳が居心地悪そうに、
「いや、なんで黙ってるんだ。
お前が返事するところだろう?」
と言う。
「あ、私に言ってらしたんですか」
他の誰に言うんだよっ。
お前と俺しかいない、この家でっ、と明巳がキレる。
「ああ、えーと……
手と話してるのかなと」
そんなわけもないのだが。
自分に話しかけたと思えなかったので。
そこにある、すごい存在感を放っているものと話しているのかなと思ってしまったのだ。
「サーカスのチケットもらったんだ。
行かないか?」
サーカス……、とほたるは口の中で呟く。
「売られてきた子どもたちが空中ブランコとか、ライオンの世話とかやらされているあれですね」
「……子どものころ、どんな本を読んでたんだ」
普通にプロ集団だろ、と明巳に言われたが、ほたるは過去の出来事を語り出す。



