響け!猛毒のグラーヴェ

ルートヴィッヒが楽しそうに笑う。レオンハルトも微笑む。穏やかな空気が二人の間に流れたその時だった。誰かが近付いてくる気配を感じ、二人は同時に振り返る。

「お楽しみのところ失礼。ジッキンゲン少佐と名探偵レオンハルト殿だと思いまして」

そう言い、グレーヘアの中年男性が被っていたシルクハットを取ってお辞儀をする。夜を思わせる漆黒のスーツは庶民の衣服よりも高価な生地が使われている。彼をレオンハルトもルートヴィッヒも知っている。

「ファスベンダー卿。お久しぶりです」

ジョセフ・ファスベンダーは魔法使いであり、トロンペーテの政治家である。彼が軍を巻き込んだとある事件の被害者となり、レオンハルトはルートヴィッヒと共に解決をしたことがあった。

「あの時は助けていただき、ありがとうございます。よろしければ一杯奢らせていただけませんか?」

ジョセフの提案にレオンハルトとルートヴィッヒは乗った。今日は特別な日。立場も種族も関係ない。無礼講である。