響け！猛毒のグラーヴェ

「どうしてそんなことをしだんだ？」

刑事がマルティンを問い詰める。マルティンは俯きながら話した。

「俺は、後悔してる。ルシアをこの屋敷で働かせるんじゃなかったってな……」

「マルティン……」

ルシアの呟きにマルティンが顔を上げる。その目には涙が浮かんでいた。

「ルシアは長い間、別の貴族の屋敷で働いていた。人間の使用人はルシアだけ。屋敷の主人が死んだ後、ルシアは身一つで屋敷から追い出された。そんなルシアを俺が拾ってこの屋敷に連れて来た。……でも、その選択が間違いだった。エミリー嬢はお前に酷い言葉と暴力しか振るわなかった。おまけに、お前の体を勝手に調べて……」

マルティンの口から嗚咽が漏れる。アントーニョが「体？」と訊ねるとルシアは悲しそうに目を伏せながら答えた。

「私には、女としてあるべき子宮が生まれつきありません。子を望めない体なんです」

レオンハルトは思い返す。エミリーがルシアを馬鹿にする時、「種族としても人としても出来損ない」と言っていた。あれはそういう意味だったのだ。レオンハルトは怒りで拳を震わせる。