響け！猛毒のグラーヴェ

セバスチャンはそう言い、何やら呪文のようなものを口にした。すると、セバスチャンがもう一人現れた。もう一度セバスチャンが呪文のようなものを唱えると、彼がもう一人現れる。どうやらセバスチャンの異能は、自身を分裂させるもののようだ。

増えたセバスチャン二人がレオンハルトとアントーニョの荷物を屋敷の中へと運び、残ったセバスチャンがエミリーの元へ二人を案内する。

屋敷の中は高そうな骨董品が多く飾られていた。レオンハルトは見慣れた光景だが、アントーニョは緊張で顔を真っ青にさせている。

セバスチャンはある部屋の前で立ち止まった。そしてドアをノックする。すぐに中から「は〜い」と返事が聞こえた。

「エミリー様。レオンハルト・ジッキンゲン様とアントーニョ・セルバンテス様がご到着されました」

「入って入って〜」

女性の気怠そうな声が聞こえてくる。セバスチャンがドアを開けると、油絵の具の独特の匂いがレオンハルトの鼻をついた。

「ようこそ！我が屋敷へ！」

部屋の中央にあるキャンバスに向かっていたメドゥーサの女性が立ち上がり、頭を下げる。左手につけられた腕時計がキラリと光った。