響け!猛毒のグラーヴェ

「そのまま帰って来なくていいんだよ」

オルハンの言葉にアントーニョが「んだと!?」と声を荒げ、カナタが仲裁に入る。レオンハルトは「旅の支度をしなくてはな」と賑やかな事務所を眺めながら思った。



それから数日後、レオンハルトが出席をする旨の返事を出すと、迎えの馬車が事務所の前に来てくれた。ただの馬車ではない。ペガサスが引く空飛ぶ馬車だ。馬車に施された豪華な装飾は、エミリー・ストーンが地位ある人物だということを物語っている。

「ジッキンゲン様、セルバンテス様、お迎えに上がりました。私はエミリー様に仕えております、執事長のセバスチャン・ブラックです。何なりとお申し付けください」

執事服を見に纏った初老と思しき男性が馬車から降り、お辞儀をする。彼は異能力者のようだ。セバスチャンにアントーニョは緊張した様子で「世話になります」とぎこちなく頭を下げた。レオンハルトもお辞儀を返す。

「わざわざお迎えいただき、ありがとうございます。申し訳ございませんが、事務所の者に挨拶だけして来ます」

「かしこまりました」