漆黒の夜空を大輪の花が彩る。人々は楽しげに笑っている。今夜は特別な夜だ。街を歩きながらレオンハルト・ジッキンゲンは微笑む。

今日はトロンペーテの建国記念日である。国中が朝からお祝いムードに包まれ、朝から華やかな楽器の演奏会やダンスパーティーがあちこちで開かれていた。祝いの熱は夜になるとさらに増す。バーや酒場で大人たちが酒を楽しみながら談笑していた。

（リズも今頃楽しんでいるだろうね）

数週間前、とある事件によって事務員として新たに探偵事務所で雇うこととなったリズ・ポッターの顔をレオンハルトは思い浮かべる。リズは同じ探偵事務所に勤めるマーガレット・アンバーとカナタ・セイネと出掛けると話していた。

アントーニョ・セルバンテスは友達の家でパーティーに参加し、オルハン・フリストウは一人家でのんびりするそうだ。建国記念日の過ごし方はそれぞれ違う。

レオンハルトは街にひっそりと佇むビアバーの中へと入った。庶民向けのお店なのだが、目立たない場所にあるせいか客の姿は他のバーや酒場に比べるとまばらである。