「……ちゃん…い…ちゃ……絃ちゃん！」

遠くから名前を呼ぶような声がする。

まぶたをゆっくりと押し上げると、この美容室独特の光が目に飛び込んできた。

「ふわぁ」と欠伸をこぼすと、自分が眠っていたことに気が付いた。

ゴシゴシと目を擦り、グッと大きな伸びを一つすると髪の毛にいつもとは違うフワッとした違和感を感じられる。

ぼやぼやしていた視界もはっきりしてきたから、自分の姿を鏡でチェックしてみた。

するとそこには、眠りにつく前と雰囲気が全く別人になっていたのだ。

服装は変わっていないのに、髪型のせいで男っぽさが出た。
肩につかないようなふんわりとしたショートヘアに長めの前髪、中性的で童顔にも見えるし大人びたようにも見え、角度を変えるとまた違う雰囲気も感じられる。

というか、なんか……顔変わった？
いつもの女顔とは違う、前髪の間から覗く伏し目がちの澄んだ目に伏せられた長い睫毛が、いつもよりシャープに感じる鼻が、儚げでミステリアスな雰囲気を醸し出す。
顔の形も、いつもよりかは若干シャープ……？

そんなことを思い自分の顔をまじまじと見ていると、私の近くに落ちている切られた髪の毛を掃除していた朔良さんが言葉を発した。

「あ、そうそう。絃ちゃん寝ていたから勝手にメイクさせてもらったわよ。一回ピンばらまけて結構大きな音が出たのに、絃ちゃん起きなくてびっくりしちゃった」

思い出したようにそう言いクスクスと笑う雅さんの話を聞きながら、私はなるほどと納得した。

「なんだか今日は疲れちゃって……熟睡していました。てか、私散髪の時って大体寝ちゃうんですよ」

そう返事しながら、さっきよりもしっかりと自分の顔を確認した。

なんか…本当にメイクしてる？って感じ。

アイラインは気にならないくらいにナチュラルに引かれているのに、目元は素の時よりもキリリとしたたれ目。
鼻の形もいつもより細く、影が濃く彫りが深くなっている。
顔のシャープ感もきっと綺麗にフェイスラインが引かれて、なじまされているんだろう。

とそんな感じで、素の女顔よりも男顔になっている。