「絃ちゃん……起き……い。ついたわよ」

遠くでそんな声が聞こえ、だんだん現実に引き戻される。

「んん?」

あれ……?あぁ、私来るまでに寝落ちしたんだ。

瞬時に今の状況を理解し、手から落ちていたスマホをササッとパーカーのポケットに入れる。

「車から降りて頂戴」

母はそう言って、運転席から車の外に出る。

私もさっきまでもたれかかっていた車の扉を開け、車内から体を出した。

「ふあぁ~」

目をこすりながら大きな欠伸をする。

「今日は髪と服を準備しましょうか。だったら、明日には終わるかもしれないわね……」

母が一人で何かを言っているが、私はスマホの画面に視線を落とした。

「絃ちゃん、スマホばかり見ていないで行くわよ」

「んー」

適当にそう返事しつつもスマホからは目を離さない。

前を気にしながらスマホを見て歩いていると、横に歩いていた母が「到着したわよ」と言った。

私はやっとスマホから目を離して目の前を見た。

そこには、『Hair Salon Lily』と大きな文字で書かれた看板が設置されているお店が建っていた。

母はそこに躊躇なく入っていったので、私もそれに続く。

「あら朔良(さくら)ちゃん。いらっしゃい」

店の中に入ると、奥のレジのところに立っていたショートヘアの女の人がそう言ってこちらに来る。

朔良と言うのは、母が芸能界で活動している名前だ。