そわそわと落ち着きなく一日を過ごし、時間になると小夜は夕べのホテルに向かった。
エレベーターで最上階に上がると、バーのマスターに挨拶する。
控え室でブルーのイブニングドレスに着替え、髪をアップでまとめるとメイクも直した。
やがて二十二時半になると、大量の楽譜を胸に抱えて控え室からホテルの廊下に出る。
(大丈夫かな。ちゃんと来てくれるよね?)
祈るようにエレベーターを見つめて待つ。
だが二十二時四十五分になっても、彼は現れない。
(あと十五分か……。どこかで道に迷ってるのかな)
そう思ってから、それはないと即座に否定した。
なぜなら、夕べこのホテルで会っているのだから。
(それならやっぱり……)
考えたくないことが頭をよぎる。
嘘をつかれたのだ、と。
時計を見るとステージ開始三分前になった。
(もう間に合わない。今来たって、着替える時間もないし)
小夜は小さくため息をつくと、踵を返す。
自分が弾くしかないと覚悟を決めた時だった。
「悪い、遅くなった」
後ろから声をかけられ、小夜は振り返る。
ブラックのステージ衣装に身を包み、髪をアップバングで整えた想が、肩で息を切らしながら立っていた。
「来栖さん!」
「このままピアノに向かう」
「はい。あの、一応楽譜も用意しました」
「ありがとう。だが、多分必要ない」
大きな歩幅で颯爽と歩く想を、小夜は急いで追いかける。
バーの入り口を開けて中に促すと、想はサッと店内に目を走らせてからマスターに会釈し、一直線にグランドピアノに向かった。
「マスター、演奏始めます」
小夜が声をかけると、マスターは店内の照明を少し絞った。
代わりにグランドピアノが置かれたステージのライトが明るくなる。
想はゆったりと椅子に座り、ひと呼吸置いてから鍵盤に両手を載せた。
エレベーターで最上階に上がると、バーのマスターに挨拶する。
控え室でブルーのイブニングドレスに着替え、髪をアップでまとめるとメイクも直した。
やがて二十二時半になると、大量の楽譜を胸に抱えて控え室からホテルの廊下に出る。
(大丈夫かな。ちゃんと来てくれるよね?)
祈るようにエレベーターを見つめて待つ。
だが二十二時四十五分になっても、彼は現れない。
(あと十五分か……。どこかで道に迷ってるのかな)
そう思ってから、それはないと即座に否定した。
なぜなら、夕べこのホテルで会っているのだから。
(それならやっぱり……)
考えたくないことが頭をよぎる。
嘘をつかれたのだ、と。
時計を見るとステージ開始三分前になった。
(もう間に合わない。今来たって、着替える時間もないし)
小夜は小さくため息をつくと、踵を返す。
自分が弾くしかないと覚悟を決めた時だった。
「悪い、遅くなった」
後ろから声をかけられ、小夜は振り返る。
ブラックのステージ衣装に身を包み、髪をアップバングで整えた想が、肩で息を切らしながら立っていた。
「来栖さん!」
「このままピアノに向かう」
「はい。あの、一応楽譜も用意しました」
「ありがとう。だが、多分必要ない」
大きな歩幅で颯爽と歩く想を、小夜は急いで追いかける。
バーの入り口を開けて中に促すと、想はサッと店内に目を走らせてからマスターに会釈し、一直線にグランドピアノに向かった。
「マスター、演奏始めます」
小夜が声をかけると、マスターは店内の照明を少し絞った。
代わりにグランドピアノが置かれたステージのライトが明るくなる。
想はゆったりと椅子に座り、ひと呼吸置いてから鍵盤に両手を載せた。



