◇
(えっと、来栖さんね)
本田の運転する車で自宅のワンルームマンションまで送ってもらうと、小夜は早速バーのマスターに電話をかけた。
【来栖】という名前と連絡先が書かれたメモを手に、事情を説明する。
『藤原さん、手をケガしたの? 大丈夫?』
「はい。軽い捻挫なので大したことはないのですが、一週間はピアノを弾かないようにとお医者様に言われまして、知り合いのピアニストに代役をお願いしました。今夜は来栖さんという男性が伺います」
『そう、わかった。手配してくれてありがとう』
「控え室への案内などは私がやります。本番にも立ち会いますので」
『わざわざ来てくれるの? ありがとう、助かるよ』
「いいえ。急なことでご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
電話を切ると、ふと気になり、インターネットで【来栖 ピアニスト】と検索してみた。
だがそれらしい人物はヒットしない。
(え……、もしかして趣味程度にしか弾けないとか?)
途端に不安になった。
一流ホテルのバーで、素人だと丸わかりの演奏をされたら……。
思わずゴクッと生唾を飲む。
自分の右手を見下ろし、そっと動かしてみた。
少し痛むが、動かないわけではない。
(いざとなれば私が代われるように、衣装も着ておこう)
だけど、と小夜は心の中で呟く。
(あの人ならきっと大丈夫)
なぜだかそう思えた。
(えっと、来栖さんね)
本田の運転する車で自宅のワンルームマンションまで送ってもらうと、小夜は早速バーのマスターに電話をかけた。
【来栖】という名前と連絡先が書かれたメモを手に、事情を説明する。
『藤原さん、手をケガしたの? 大丈夫?』
「はい。軽い捻挫なので大したことはないのですが、一週間はピアノを弾かないようにとお医者様に言われまして、知り合いのピアニストに代役をお願いしました。今夜は来栖さんという男性が伺います」
『そう、わかった。手配してくれてありがとう』
「控え室への案内などは私がやります。本番にも立ち会いますので」
『わざわざ来てくれるの? ありがとう、助かるよ』
「いいえ。急なことでご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
電話を切ると、ふと気になり、インターネットで【来栖 ピアニスト】と検索してみた。
だがそれらしい人物はヒットしない。
(え……、もしかして趣味程度にしか弾けないとか?)
途端に不安になった。
一流ホテルのバーで、素人だと丸わかりの演奏をされたら……。
思わずゴクッと生唾を飲む。
自分の右手を見下ろし、そっと動かしてみた。
少し痛むが、動かないわけではない。
(いざとなれば私が代われるように、衣装も着ておこう)
だけど、と小夜は心の中で呟く。
(あの人ならきっと大丈夫)
なぜだかそう思えた。



