「藤原さん、おはようございます」
翌朝。
本田と想は再び小夜の病室を訪れた。
「おはようございます。すみません、わざわざ今日も来てくださって」
「いいえ。今、退院の手続きをしてきますね」
そう言って本田が出ていくと、想は小夜に仕事について聞いてみる。
休めそうかと尋ねると、小夜は表情を曇らせた。
「昼間の仕事は休ませてもらえました。ですが、夜のピアノ演奏の方が……。来週の代役はピアノ仲間に頼めたのですが、今夜だけはどうしても見つからなくて。みんな急すぎて都合がつかないと」
「そうか」
想は視線を落として考えを巡らせる。
「あのホテルのバーでのピアノ演奏だよな? 時間は何時から?」
「二十三時から三十分間と、二十四時から三十分間のツーステージです」
「レパートリーは? ジャンルとか、決められてる?」
小夜は怪訝な面持ちで答える。
「えっと、特に決まりはなく、その場の雰囲気に合わせて弾いています。お客様は割りと年輩の男性が多いので、ジャズとか少し古い洋楽なんかが喜ばれますけど」
「わかった。今夜の代役は俺にさせてくれ」
「……は?」
目を丸くして固まってから、小夜はぱちぱちと瞬きをした。
「あの、あなたはピアニストなのですか?」
「本職ではないけど、弾ける。……って言っても信じられないか」
ボソッと呟く想に、小夜はしばし考え込む。
じっとうつむいていたが、何かを決心したように頷いた。
「いえ、あなたの言葉を信じます。どうか今夜の代役をお願いします」
想はパッと顔を上げる。
「本当に?」
「はい。バーのマスターには私から連絡を入れておきます。演奏には、私も立ち会いますので」
「わざわざ来てくれるのか?」
「はい。手は使えませんが、身体は空いてますので。では今夜、バーの入り口でお待ちしています。控え室で着替えもできますので」
「わかった。必ず伺う」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げる小夜に、想はしっかりと頷いてみせた。
翌朝。
本田と想は再び小夜の病室を訪れた。
「おはようございます。すみません、わざわざ今日も来てくださって」
「いいえ。今、退院の手続きをしてきますね」
そう言って本田が出ていくと、想は小夜に仕事について聞いてみる。
休めそうかと尋ねると、小夜は表情を曇らせた。
「昼間の仕事は休ませてもらえました。ですが、夜のピアノ演奏の方が……。来週の代役はピアノ仲間に頼めたのですが、今夜だけはどうしても見つからなくて。みんな急すぎて都合がつかないと」
「そうか」
想は視線を落として考えを巡らせる。
「あのホテルのバーでのピアノ演奏だよな? 時間は何時から?」
「二十三時から三十分間と、二十四時から三十分間のツーステージです」
「レパートリーは? ジャンルとか、決められてる?」
小夜は怪訝な面持ちで答える。
「えっと、特に決まりはなく、その場の雰囲気に合わせて弾いています。お客様は割りと年輩の男性が多いので、ジャズとか少し古い洋楽なんかが喜ばれますけど」
「わかった。今夜の代役は俺にさせてくれ」
「……は?」
目を丸くして固まってから、小夜はぱちぱちと瞬きをした。
「あの、あなたはピアニストなのですか?」
「本職ではないけど、弾ける。……って言っても信じられないか」
ボソッと呟く想に、小夜はしばし考え込む。
じっとうつむいていたが、何かを決心したように頷いた。
「いえ、あなたの言葉を信じます。どうか今夜の代役をお願いします」
想はパッと顔を上げる。
「本当に?」
「はい。バーのマスターには私から連絡を入れておきます。演奏には、私も立ち会いますので」
「わざわざ来てくれるのか?」
「はい。手は使えませんが、身体は空いてますので。では今夜、バーの入り口でお待ちしています。控え室で着替えもできますので」
「わかった。必ず伺う」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げる小夜に、想はしっかりと頷いてみせた。



