演奏を終えた想は、やり切ったというようにしばらく動かなかった。
顔を伏せ、ただ現実が戻ってくるのを待っているようにも見える。
本当に彼なのだろうか。
やはりこれは夢では?
小夜が再びそんな考えにとらわれた時、想がゆっくりと顔を上げ、ふと視線を移した。
(あっ……)
見つかってしまう、と思った時には遅かった。
想は小夜に気づくと目を見開き、ガタッと音を立てて立ち上がる。
「……小夜?」
小夜の胸がドキッと跳ねた。
あの声で名前を呼ばれるとは。
(たったひと晩のできごとを、彼はまだ覚えていたの? 遊びのつもりで、ほんのちょっと手を出しただけの相手を?)
いいえ、違う。
彼はそんな人ではない。
それくらい、最初からわかっていたはず。
なぜならあの夜、大切に愛おしそうに抱いてくれたから。
壊れものに触れるかのように、そっと優しく。
まるで今聴いたばかりのピアノのように。
そう考えていた小夜は、またしても動くのが遅れた。
想が焦りを隠さずに小夜のもとへと駆け寄って来る。
「待て! 小夜」
立ち去ろうとした小夜の腕を掴み、そのまま胸に抱きしめた。
(え……?)
いったいなにが起きているのかと、小夜は信じられない思いで身を固くする。
切なさがそのまま伝わってくるかのように、想は小夜の頭を抱え込み、耳元でささやいた。
「……小夜」
かすれた声で振り絞るように名前を呼ばれ、小夜の胸がキュッと痛む。
「ずっと、ずっと求めてた。俺の心が、君を」
それはまるで魂の悲痛な叫びのようで、かすかに身体が震えている想に、小夜の目にも涙が込み上げてきた。
心の奥底にしまい込み、決して考えてはいけないと目をそらしてきた自分の気持ちが、せきを切ったように溢れ出す。
想も、小夜も。
おずおずと想の背中に手を回し、小夜は想の胸に顔をうずめて涙をこぼす。
想はそんな小夜を、ますます強く抱きしめていた。
顔を伏せ、ただ現実が戻ってくるのを待っているようにも見える。
本当に彼なのだろうか。
やはりこれは夢では?
小夜が再びそんな考えにとらわれた時、想がゆっくりと顔を上げ、ふと視線を移した。
(あっ……)
見つかってしまう、と思った時には遅かった。
想は小夜に気づくと目を見開き、ガタッと音を立てて立ち上がる。
「……小夜?」
小夜の胸がドキッと跳ねた。
あの声で名前を呼ばれるとは。
(たったひと晩のできごとを、彼はまだ覚えていたの? 遊びのつもりで、ほんのちょっと手を出しただけの相手を?)
いいえ、違う。
彼はそんな人ではない。
それくらい、最初からわかっていたはず。
なぜならあの夜、大切に愛おしそうに抱いてくれたから。
壊れものに触れるかのように、そっと優しく。
まるで今聴いたばかりのピアノのように。
そう考えていた小夜は、またしても動くのが遅れた。
想が焦りを隠さずに小夜のもとへと駆け寄って来る。
「待て! 小夜」
立ち去ろうとした小夜の腕を掴み、そのまま胸に抱きしめた。
(え……?)
いったいなにが起きているのかと、小夜は信じられない思いで身を固くする。
切なさがそのまま伝わってくるかのように、想は小夜の頭を抱え込み、耳元でささやいた。
「……小夜」
かすれた声で振り絞るように名前を呼ばれ、小夜の胸がキュッと痛む。
「ずっと、ずっと求めてた。俺の心が、君を」
それはまるで魂の悲痛な叫びのようで、かすかに身体が震えている想に、小夜の目にも涙が込み上げてきた。
心の奥底にしまい込み、決して考えてはいけないと目をそらしてきた自分の気持ちが、せきを切ったように溢れ出す。
想も、小夜も。
おずおずと想の背中に手を回し、小夜は想の胸に顔をうずめて涙をこぼす。
想はそんな小夜を、ますます強く抱きしめていた。



