Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜

翌日。
仕事先の楽器店の楽譜コーナーで、小夜はその楽譜を見つけた。

(あった!)

ぺらぺらとページをめくってみる。
アレンジも上級者向けで、よさそうだった。

そのままレジに向かい、光に会計を頼む。

「ん? 小夜、この曲弾くの?」
「そう。バーのお客様からリクエストされて」
「へえ。聴いてみたい、小夜のこの曲」
「センスが問われる曲だよね。上手いか下手か、すぐバレちゃう。がんばって練習しなきゃ」

仕事終わりに、早速店内のピアノを使わせてもらった。

「え、光くん。ほんとに聴くの?」
「もちろん」
「やだなー、弾きづらい。今日のところは音の確認だけだからね?」
「はいはい。ほら、早く」

急かされて、小夜は楽譜を開く。
音符が少なくて簡単そうに見える曲ほど、聴かせるのは難しい。
小夜は気持ちを整えてから、ゆっくりと鍵盤に両手を載せた。
静かに、想いを込めて、歌うように弾く。
音符の下に英語の歌詞が書かれていて、弾きながら目で追った。
だが曲が進むにつれて、小夜の心はかき乱される。

(……これが、あの時の彼の気持ちだったの?)



二度目のチャンスをずっと待っている
この辛い状況から逃れる機会を

自分がつまらない人間だとわかっている
だから一日の終わりはこんなにも辛い

天使の腕に抱かれ
ここから飛び立つ
終わりのない恐怖から
静かな幻想の残骸から
救い出される

天使の腕の中で
少しでも安らぎを見つけられますように……