「あの、歩けますから」
「だめだ。頭を打ってしばらく意識がなかった。じっとしてろ」
抱かれている恥ずかしさに小夜は焦るが、男性は険しい表情のまま足早に建物に入った。
そしてそのまま受付へと向かう。
「すみません、外科で診ていただきたいのですが」
「はい、どうされましたか?」
「十五分ほど前に、突き飛ばされて地面に頭を打ちつけました。十分ほど意識を失っていたので、検査をお願いします」
「そちらの女性ですね? わかりました。このストレッチャーへ」
「はい」
男性はそっと小夜をストレッチャーに寝かせると、手渡された問診票に記入していく。
小夜はその様子を横目でうかがった。
背の高い男性は黒いキャップを目深にかぶり、黒い眼鏡と黒いTシャツ、おまけにボトムも黒と、全身真っ黒だ。
(この人、さっきホテルのエントランスですれ違った人かな? 女の子たちがあとを追いかけてたみたいだったけど)
そうだ、思い出した。
その女の子たちに突き飛ばされて、危ない!と思ったものの、手をケガしたくなくて頭から地面に倒れてしまったことを。
(でも結局手もかばい切れなかったのね。右手首がちょっと痛い)
後頭部の割れるような痛みよりも、つい手の方を気にしてしまう。
その時、男性が視線を伏せたまま小夜に尋ねた。
「ごめん、代筆するから名前や住所を聞いてもいいか?」
「あ、はい。名前は藤原 小夜です」
「藤原……『さよ』はどういう漢字を書く?」
「小さい夜で、小夜です」
小さい夜、と呟いたあと、男性は切れ長の目をふっと小夜に移した。
「あの……?」
どうしたのかと、小夜は首をかしげて男性を見つめる。
しばらく視線を合わせたあと、男性はハッとしたようにまた目を伏せた。
「悪い。えっと、生年月日と連絡先も頼む。もちろん個人情報は悪用しないから」
こんな時に律儀な人だなと思いながら、小夜は生年月日や住所、電話番号を伝えた。
「保険証は持ってるか?」
「財布に入れてあるのですけど、私のかばんがどこにあるのか……」
「そうだった。君のかばんは車の中にある。あとで持って来てもらうから」
「はい、ありがとうございます」
「礼なんか言わないでくれ。悪いのはこっちなんだ」
どういう意味なのだろうと思っていると、ナースに「藤原さん、診察室へ行きますね」と声をかけられ、ストレッチャーのまま運ばれる。
「付き添いの方もどうぞ。先生に詳しい状況をお伝えください」
そう言われて、男性も診察室に入った。
「だめだ。頭を打ってしばらく意識がなかった。じっとしてろ」
抱かれている恥ずかしさに小夜は焦るが、男性は険しい表情のまま足早に建物に入った。
そしてそのまま受付へと向かう。
「すみません、外科で診ていただきたいのですが」
「はい、どうされましたか?」
「十五分ほど前に、突き飛ばされて地面に頭を打ちつけました。十分ほど意識を失っていたので、検査をお願いします」
「そちらの女性ですね? わかりました。このストレッチャーへ」
「はい」
男性はそっと小夜をストレッチャーに寝かせると、手渡された問診票に記入していく。
小夜はその様子を横目でうかがった。
背の高い男性は黒いキャップを目深にかぶり、黒い眼鏡と黒いTシャツ、おまけにボトムも黒と、全身真っ黒だ。
(この人、さっきホテルのエントランスですれ違った人かな? 女の子たちがあとを追いかけてたみたいだったけど)
そうだ、思い出した。
その女の子たちに突き飛ばされて、危ない!と思ったものの、手をケガしたくなくて頭から地面に倒れてしまったことを。
(でも結局手もかばい切れなかったのね。右手首がちょっと痛い)
後頭部の割れるような痛みよりも、つい手の方を気にしてしまう。
その時、男性が視線を伏せたまま小夜に尋ねた。
「ごめん、代筆するから名前や住所を聞いてもいいか?」
「あ、はい。名前は藤原 小夜です」
「藤原……『さよ』はどういう漢字を書く?」
「小さい夜で、小夜です」
小さい夜、と呟いたあと、男性は切れ長の目をふっと小夜に移した。
「あの……?」
どうしたのかと、小夜は首をかしげて男性を見つめる。
しばらく視線を合わせたあと、男性はハッとしたようにまた目を伏せた。
「悪い。えっと、生年月日と連絡先も頼む。もちろん個人情報は悪用しないから」
こんな時に律儀な人だなと思いながら、小夜は生年月日や住所、電話番号を伝えた。
「保険証は持ってるか?」
「財布に入れてあるのですけど、私のかばんがどこにあるのか……」
「そうだった。君のかばんは車の中にある。あとで持って来てもらうから」
「はい、ありがとうございます」
「礼なんか言わないでくれ。悪いのはこっちなんだ」
どういう意味なのだろうと思っていると、ナースに「藤原さん、診察室へ行きますね」と声をかけられ、ストレッチャーのまま運ばれる。
「付き添いの方もどうぞ。先生に詳しい状況をお伝えください」
そう言われて、男性も診察室に入った。



