Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜

「マスター、こんばんは」

バーに入って挨拶すると、カウンターの中にいたマスターが顔を上げる。

「藤原さん! 手はもう大丈夫?」
「はい、大丈夫です。今夜から復帰しますので、またよろしくお願いします」
「こちらこそ。あ、それでね」

急に笑顔を消して、マスターは声を潜めた。

「どうかしましたか?」
「うん。先週の日曜日、来栖さんが演奏してくれたでしょ? だからもしかしたら今夜も……って、期待されてるお客様が何人かいらっしゃってね」

うっ、と小夜は言葉に詰まる。

「今夜は藤原さんですよってお答えしたけど、他にもまだいらっしゃるかなと思って。ちょっとやりにくい雰囲気かも? 気にしないでね」

そう言われても気にしてしまう。
だがここは頷くしかなかった。

「わかりました、ありがとうございます。では着替えてきますね」

小夜はそそくさと控え室に行き、支度を始めた。