(……え?)

ぼんやりと目を開けた小夜は、状況が呑み込めないままゆっくりと瞬きをする。
どうやら車の後部シートに寝かされているらしく、夜の闇に流れるような明かりが、窓の外に見えた。
車の振動も身体に伝わってくるが、頭はまるで守られているように、何かにそっと包み込まれている気がした。

(なんだろう、大きな手? それにこれって、膝まくら?)

感じられる温かさに、少し首を動かしてみる。

「気がついたか?」

急に誰かに真上から顔を覗き込まれて、小夜はハッと身体を起こした。
ゴン!と互いのおでこがぶつかる。

「いてっ!」
「あ、ごめんなさい」

小夜は慌てて謝る。
だが途端にズキズキと頭が割れるように痛み、ギュッと目を閉じて再び倒れ込んだ。

「大丈夫か?」
「あ、はい」

かろうじて返事をするが、後頭部の痛みは増すばかりだった。
小夜を膝まくらしていた男性が、心配そうに再び顔を覗き込む。

「動くとよくない。このままじっとしてて。今、病院に向かってるから」
「病院、ですか?」
「ああ。夜間診療の病院がすぐ近くにあるんだ」

その時、ゆっくりと車が停車した。

「着いたぞ」

運転席から声がして、小夜が見上げていた男性が頷く。

「すぐに彼女を診てもらいます。本田さん、あとで連絡しますから」
「わかった」

ワンボックスカーの後部スライドドアが電動で開き、男性は小夜を抱き上げて車を降りた。