♣♣♣
「たいがいしつこいぞ。俺は絶対に受け取らない。ほら、さっさと帰れ」
想が小夜に封筒を突き返すが、小夜は後方に目をやり、驚いたように立ち尽くしている。
ん?と想も後ろを振り返った。
どうってことはない、バーに行く前に着替えた時のままの部屋が広がっている。
「どうかしたか?」
「す、すごい。ここ、スイートルームですか?」
「そうだけど」
「初めて見ました、こんな豪華なお部屋」
「そうか」
だからどうした、と言いたかったが、感激の面持ちで目を輝かせている小夜に、開きかけた口を閉ざす。
「来栖さん、大富豪とか御曹司でいらっしゃるんですね」
「は? なんだそれ」
「だって三日間もここに泊まってたんでしょう? 凡人には無理ですよ」
小夜は両手を組んでうっとりと部屋を見渡している。
「……そんなに珍しいか?」
「それはもう。ドラマや映画の世界ですね。高級マンションのモデルルームみたい。ソファやダイニングテーブルもゴージャスで。寝室は別にあるんですか?」
「ああ、奥にふた部屋ある」
「ふた部屋も?」
すると急に小夜は「あっ!」と口元に手をやった。
「どうした?」
「すみません! 来栖さん、恋人とご一緒に宿泊されてるんですね。失礼しました。では、私はこれで」
そそくさと立ち去ろうとする小夜を、想はまたしても引き留める。
「だから、これを持って帰れって」
封筒を握らせようとするが、頑なに小夜は手を引っ込めた。
「ですから、これは来栖さんのものです。あの、離してください。彼女さんに気づかれたら……」
「女なんて泊めてない」
「え? そうなんですね。でもとにかくこれは置いていきます」
「受け取れないって言ってるだろう? しつこいな」
「どっちがですか!?」
想はしばし逡巡してから頷いた。
「わかった、そこまで言うならありがたく受け取る。その代わりと言ってはなんだが、しばらくここから夜景を眺めていくか? コーヒーでも飲みながら」
「え、いいんですか?」
「ああ、窓際のソファにどうぞ」
「ありがとうございます」
小夜はイブニングドレス姿のまま、嬉しそうにソファに腰を下ろす。
想はコーヒーを淹れてソファの前のテーブルに運び、少し照明を絞った。
「わあ、なんて綺麗な夜空」
小夜が窓の外に見とれている間に、さり気なく小夜の足元に置かれたトートバッグに封筒を滑り込ませる。
(これでよし)
ニヤリとほくそ笑み、ゆったりとソファに背を預けてコーヒーを味わう。
小夜はコーヒーには目もくれず、時間を忘れたように夜景を見つめていた。
「たいがいしつこいぞ。俺は絶対に受け取らない。ほら、さっさと帰れ」
想が小夜に封筒を突き返すが、小夜は後方に目をやり、驚いたように立ち尽くしている。
ん?と想も後ろを振り返った。
どうってことはない、バーに行く前に着替えた時のままの部屋が広がっている。
「どうかしたか?」
「す、すごい。ここ、スイートルームですか?」
「そうだけど」
「初めて見ました、こんな豪華なお部屋」
「そうか」
だからどうした、と言いたかったが、感激の面持ちで目を輝かせている小夜に、開きかけた口を閉ざす。
「来栖さん、大富豪とか御曹司でいらっしゃるんですね」
「は? なんだそれ」
「だって三日間もここに泊まってたんでしょう? 凡人には無理ですよ」
小夜は両手を組んでうっとりと部屋を見渡している。
「……そんなに珍しいか?」
「それはもう。ドラマや映画の世界ですね。高級マンションのモデルルームみたい。ソファやダイニングテーブルもゴージャスで。寝室は別にあるんですか?」
「ああ、奥にふた部屋ある」
「ふた部屋も?」
すると急に小夜は「あっ!」と口元に手をやった。
「どうした?」
「すみません! 来栖さん、恋人とご一緒に宿泊されてるんですね。失礼しました。では、私はこれで」
そそくさと立ち去ろうとする小夜を、想はまたしても引き留める。
「だから、これを持って帰れって」
封筒を握らせようとするが、頑なに小夜は手を引っ込めた。
「ですから、これは来栖さんのものです。あの、離してください。彼女さんに気づかれたら……」
「女なんて泊めてない」
「え? そうなんですね。でもとにかくこれは置いていきます」
「受け取れないって言ってるだろう? しつこいな」
「どっちがですか!?」
想はしばし逡巡してから頷いた。
「わかった、そこまで言うならありがたく受け取る。その代わりと言ってはなんだが、しばらくここから夜景を眺めていくか? コーヒーでも飲みながら」
「え、いいんですか?」
「ああ、窓際のソファにどうぞ」
「ありがとうございます」
小夜はイブニングドレス姿のまま、嬉しそうにソファに腰を下ろす。
想はコーヒーを淹れてソファの前のテーブルに運び、少し照明を絞った。
「わあ、なんて綺麗な夜空」
小夜が窓の外に見とれている間に、さり気なく小夜の足元に置かれたトートバッグに封筒を滑り込ませる。
(これでよし)
ニヤリとほくそ笑み、ゆったりとソファに背を預けてコーヒーを味わう。
小夜はコーヒーには目もくれず、時間を忘れたように夜景を見つめていた。



