「お疲れ様でした!」
休憩の為に想を控え室に案内すると、小夜は興奮冷めやらぬまま話し出す。
「とっても素敵でした。心に真っ直ぐに響いてきて、胸がいっぱいになりました。あんなに次々と曲を繋いで、でもそれがとても自然で。ワンステージまったく止まらずに、最後まで惹き込まれるなんて。しかも曲調がそれぞれ魅力に溢れてて。かっこいいし、うっとりするし、切なくなるし、幸せになるし。あー、もう、ひとことではとても言い尽くせません」
両手を組んで興奮気味にまくし立てる小夜に、想は苦笑いする。
その時コンコンとノックの音がして、マスターが入って来た。
「お疲れ様でした。軽くお食事とドリンクをどうぞ」
そう言ってテーブルに、オードブルと綺麗な色のカクテルを置く。
「いやー、それにしても素晴らしい演奏でした。お客様、どなたも帰られませんよ。皆様楽しそうに感想を話しながら、セカンドステージを楽しみにされています」
「そうなのですね! 私もとっても楽しみです」
「藤原さん、いい人を紹介してくれました。えっと、来栖さん、でしたね? どうでしょう。今後も時々演奏をお願いできませんか?」
するとそれまで黙っていた想が、小さく首を振った。
「いや、それはできないです」
え……、と小夜もマスターも意気消沈する。
「そうですか、残念だな。でもいつでもお待ちしています。もしご都合つけば、ぜひいらしてください」
マスターはにこやかにそう言ってから、部屋を出ていく。
パタンとドアが閉まると沈黙が広がった。
「えっと、このカクテル、綺麗な色ですね」
小夜は取り繕うように、すみれ色のカクテルを手にする。
「なんて名前のカクテルなのかな」
小さく呟くと、「ブルームーン」と低い声が響いた。
え?と小夜は顔を上げて想を見る。
「ジンベースで、バイオレットリキュールの香りがほんのり漂う、飲みやすいカクテルだ」
「そうなんですね。ブルームーン……。今夜の満月みたいに綺麗」
「二度と同じ夜は来ないって意味がある。ブルームーンは、すごく珍しい満月だから」
「二度と同じ夜は、来ない……?」
「ああ。once in a blue moonって英語の慣用句もある。奇跡のようなって意味合いだ。だけど……」
そこまで言うと、想は正面から小夜と視線を合わせた。
「ブルームーンを見ると幸せになれると言われている」
まるで射貫くように真っ直ぐに向けられた想の瞳は、小夜の胸をキュッと締めつける。
(二度と来ない、奇跡のような夜……)
その言葉が、小夜の心にいつまでも残った。
休憩の為に想を控え室に案内すると、小夜は興奮冷めやらぬまま話し出す。
「とっても素敵でした。心に真っ直ぐに響いてきて、胸がいっぱいになりました。あんなに次々と曲を繋いで、でもそれがとても自然で。ワンステージまったく止まらずに、最後まで惹き込まれるなんて。しかも曲調がそれぞれ魅力に溢れてて。かっこいいし、うっとりするし、切なくなるし、幸せになるし。あー、もう、ひとことではとても言い尽くせません」
両手を組んで興奮気味にまくし立てる小夜に、想は苦笑いする。
その時コンコンとノックの音がして、マスターが入って来た。
「お疲れ様でした。軽くお食事とドリンクをどうぞ」
そう言ってテーブルに、オードブルと綺麗な色のカクテルを置く。
「いやー、それにしても素晴らしい演奏でした。お客様、どなたも帰られませんよ。皆様楽しそうに感想を話しながら、セカンドステージを楽しみにされています」
「そうなのですね! 私もとっても楽しみです」
「藤原さん、いい人を紹介してくれました。えっと、来栖さん、でしたね? どうでしょう。今後も時々演奏をお願いできませんか?」
するとそれまで黙っていた想が、小さく首を振った。
「いや、それはできないです」
え……、と小夜もマスターも意気消沈する。
「そうですか、残念だな。でもいつでもお待ちしています。もしご都合つけば、ぜひいらしてください」
マスターはにこやかにそう言ってから、部屋を出ていく。
パタンとドアが閉まると沈黙が広がった。
「えっと、このカクテル、綺麗な色ですね」
小夜は取り繕うように、すみれ色のカクテルを手にする。
「なんて名前のカクテルなのかな」
小さく呟くと、「ブルームーン」と低い声が響いた。
え?と小夜は顔を上げて想を見る。
「ジンベースで、バイオレットリキュールの香りがほんのり漂う、飲みやすいカクテルだ」
「そうなんですね。ブルームーン……。今夜の満月みたいに綺麗」
「二度と同じ夜は来ないって意味がある。ブルームーンは、すごく珍しい満月だから」
「二度と同じ夜は、来ない……?」
「ああ。once in a blue moonって英語の慣用句もある。奇跡のようなって意味合いだ。だけど……」
そこまで言うと、想は正面から小夜と視線を合わせた。
「ブルームーンを見ると幸せになれると言われている」
まるで射貫くように真っ直ぐに向けられた想の瞳は、小夜の胸をキュッと締めつける。
(二度と来ない、奇跡のような夜……)
その言葉が、小夜の心にいつまでも残った。



