Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜

仕事を終えてロッカールームでスマートフォンを確認すると、想からメッセージが届いていた。

【先にチェックインして部屋で待ってる】

小夜は【これから向かうね】と返信して、急いで帰り支度をする。

向かったのは、ブルームーンの夜を一緒に過ごしたあのホテルのスイートルーム。
小夜はいつものように辺りの様子をうかがいながら、部屋のチャイムを押した。
ドアが開き、スーツ姿の想が出迎えてくれる。

「わっ、想、かっこいいね」

思わずそう言うと、想は小夜の腰に両腕を回してグッと抱き寄せた。
見上げた刹那、想のキスが落ちてくる。
小夜の身体から力が抜け、想に身を預けた。
チュッと音を立てて唇が離れると、想は小夜の瞳を覗き込む。

「誕生日おめでとう、小夜」
「ありがとう。誕生日に想に会えたことが、すごく嬉しい」
「夜はまだまだこれからだ。おいで」

そう言って想は、小夜をダイニングテーブルへとエスコートした。

「どうぞ」
「ありがとう」

想が引いてくれた椅子に座ると、想も向かいの席に座り、ワインで乾杯する。
小夜は想のフォーマルな装いと大人の雰囲気に酔いしれ、思わずポーッと見とれてしまった。

「なんだか不思議。芸能人の想が目の前にいるなんて」

芸能人?と想は首をかしげる。

「自分のことをそんなふうに思ったことないな」
「そうなの? だってテレビにも出てるのに」
「最近になってようやく少し出演した程度だ。俺は小夜と同じで、ピアノの演奏家の一人にすぎない」
「私なんかとは雲泥の差だよ。想は雲の上の人」
「おい、仙人みたいに言わないでくれ。俺は小夜の隣で小夜を幸せにしたいんだから」
「ふふっ、もう充分幸せです」
「甘いな、小夜。こんなのまだまだ序の口だ」

今夜の想は無敵だ。
なにを言ってもかっこいいし、大人の余裕が漂っている、
小夜はただその雰囲気に惚れ惚れしていた。