Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜

「小夜。お前の相手って、シンガーソングライターの想か?」

三月に入ってすぐ、いきなり職場で光にそう切り出され、小夜は思わず固まった。

「やっぱりか。バレンタインコンサートで見かけてから、ずっと誰かに似てるって気になってた」

バレンタインコンサートで?
想もあの時、バーにいたということなのだろうか。
いや、それよりも今は。

「待って、お願い光くん。誰にも言わないで」

小夜は辺りを気にしながら小声で詰め寄った。

「お願いだからこのことは内緒にしてて。お願いします」

必死で手を合わせてそう言うと、光は大きくため息をつく。

「小夜にこんなこと言わせるなんて……。それで小夜は幸せなのか? 人に言えないような相手と、こそこそつき合って。外でデートもできないだろ? 堂々と宣言しないあいつが許せない」
「違うの、光くん。秘密にしててって言ったのは私の方で……」
「言わせたのはあいつだろ!」

鋭い声で言われて、小夜は思わず言葉を呑み込む。
光は真剣な顔で小夜に向き合った。

「小夜が幸せなら俺は身を引く。けどそうじゃないなら、少しでも小夜を泣かせたりしたら、その時は……」

光はギラッと目の色を変える。

「あいつから奪ってやる」

強い眼差しに圧倒されて、小夜はなにも言い返せない。

「あいつにそう言っといて。じゃあ」

光が立ち去っても、小夜は呆然と立ち尽くしていた。