柊先生との対話のあと。
夕暮れの校舎を、霧島くんと並んで歩いていた。
窓から差し込むオレンジ色が、ふたりの影を長く伸ばす。
静かな廊下。響くのは足音だけ。
「……“約束を果たすために作った”って、柊先生……そう言ってたよね」
わたしが口にすると、霧島くんは少し考えるように空を見上げた。
「多分、あの写真に写ってた人とのことなんだろうな」
「やっぱり……そうだよね。特別な人……だったんだ」
胸がちくりと痛む。先生が“恋”を研究してた理由。
もしかしたら、わたしたちがあのアプリに巻き込まれた理由も。
「……でもさ」
霧島くんが、不意にこちらを向く。
「先生は“失敗するなよ”って言った。つまり……俺たちには、ちゃんと幸せになってほしいって思ってるんじゃないか」
「……霧島くん……」
そんなふうに言える彼が、ずるいくらいにまっすぐで。
そのまっすぐさが、また胸を温かくしていく。
「だから……俺たちがどうなるかは、先生の約束のためでもあるけど──」
「けど?」
彼はわざと間を置いて、ちょっとだけ笑う。
「──俺は、星川さんのほうが大事」
「っ……!」
な、なにそれ……!
耳まで真っ赤になったのを自覚した。
柊先生の言葉よりも、記憶よりも、何よりも。
今の霧島くんの言葉が、胸に深く刻まれていく。


