そのとき、ぱらりとページがめくれて、ノートの端に走り書きされた文字が目に入る。
──「わたし、忘れない」
──「奏都くんと一緒にがんばる」
見慣れた字。
……わたしの字?
指先でその部分をそっとなぞった瞬間、心の奥で何かが弾けそうになった。
景色がちらりと揺らぐ。
どこかで聞いたような声。
夜の廊下の影。
名前を呼ぶ響き。
「……っ」
頭を振っても、すぐには掴めない。
でも確かに、何かが浮かびかけている。
そんなわたしを見て、霧島くんは心配そうに覗き込んだ。
「……大丈夫?」
「うん……ただ、なんか……」
──思い出せそう。
心の奥がざわつく。
けれどまだ、決定的な一歩手前。
わたしは震える手でノートを閉じた。


