「……先生。いつから?」
「最初からだよ。君が何を探しているのか、大体の見当はついている」
柊先生の目は、笑っていなかった。
普段の柔らかな口調と表情とは違う、教師の顔でもなく、かといって敵でもない、どこか中立的な、掴みどころのない雰囲気。
「引き返すなら、今だ。これ以上、深く知ろうとすれば……君は後戻りできなくなる」
「引き返すつもりはありません。りんの記憶が、あのアプリで消された。ふざけたゲームのせいで……」
感情が高まるのを抑えきれなかった。
「俺は……また、りんに好きになってもらいたいんです。だから、知りたいんです。あのアプリのこと。なぜ、こんなゲームが存在するのか」
柊先生はふっと目を伏せ、図書室の窓の外に目をやった。
「“恋心は、毒にも薬にもなる”。その意味が、君にわかる日が来るかもしれない。……でも今はまだ、その問いに答える時じゃない」
「先生は……関係あるんですか? あのゲームに」
「それは教師としてではなく、一人の“過去の生徒”としての話になる。……そのうち、話す機会は来るさ」
柊先生はそう言って、背を向けた。
「君が何を選ぶのか――それを見届けるのも、悪くないと思ってるよ。霧島くん」
そのまま、図書室をあとにする足音だけが響いた。
俺は、開いたファイルを見つめたまま、じっとその場に立ち尽くしていた。
*
*
*


