*奏都side*
りんが図書室を出ていったあと、奏都はしばらくその場から動けなかった。
俺の”記憶“は消えていない。
つまり——恋心に自覚した人”だけ“が記憶を消され、ペアは消されない。
俺はゆっくりと目を閉じた。
──思い出す、あの瞬間。
『でも、もう無理。
わたし……奏都くんのこと、ほんとに好きになっちゃったんだよ』
泣きそうな顔でそう言った彼女。
震えながら伝えてくれた、その“好き”という言葉。
本気で嬉しかった。
だからこそ、全部消されるのが、許せなかった。
“好きになったらゲームオーバー”
“感情が一定値を超えると、恋心ごと消される”
馬鹿げたルールだ。
ゲームだなんて言いながら、命みたいに大事なものを奪っていく。
でも──その中で芽生えた感情だけは、絶対に嘘じゃない。
記憶を消されたあとの笑顔。
でもそれは、“ただのクラスメイト”に向けられたものだった。
──ほんとは、君が言ったんだ。
──「好きだ」って、ちゃんと。
だけど、消えた。
たしかにあったはずの記憶も、感情も、言葉も。
「昨日のあの言葉」も、「並んで歩いた放課後」も、
今はもう、りんの中には存在しない。
名前を呼ばれても、もう俺のことを特別に思ってるわけじゃない。
あのとき手を伸ばしてきた意味も、俺だけに向けた笑顔も、
今の彼女は、何一つ知らない。
でも——
「記憶が消えたからって……あの気持ちまで、なかったことにはさせない」
俺は強く拳を握る。
「……もう一回、俺が好きにさせるしかない」
自分から手を伸ばして、笑わせて、守って──もう一度、恋に落とさせてみせる。
どれだけ時間がかかっても。
どれだけアプリが邪魔してきても。
──恋心は、消えても。
魂ごと揺さぶった気持ちは、きっとどこかに残ってる。
だから、諦めない。
これはもう恋じゃない。戦いだ。


