帰り道。
すでに空は夕方オレンジ。
「なんか今日、変じゃない?」
「変じゃないし!?むしろ、超平常心だし!?人間の鑑だし!?」
ふたり並んで、信号を待つ時間。
もうだめだ。言うしかない。
「あのさ、」
りんは目をつむって、深呼吸。
……ダメだ、逃げたくなる。けど……
言わなきゃ、もっと……近づけない気がする。
「……奏都くん!」
その瞬間、赤信号よりも眩しい赤みが、彼の頬にうっすら浮かんだ。
奏都くんは、思わず口元を指で隠すようにして、視線をそらす。
「……え?」
「いやだから、ミッションだから!しょうがないやつだから!!」
霧島は視線をそらしたまま、ボソッとつぶやく。
「……急に呼ぶな。びっくりする」
いやこっちのほうが心臓死んでますけど!?!?
スカートのポケットの中のスマホが、小さく震える。
きっと、ミッションクリアの通知と、ときめき度が上がった通知。
だけど、わたしは奏都くんから目を離せなかった。
視線が交わる。
「……りん」
「——へ?」
空気が止まる。
今、確かに、奏都くんが。
わたしの名前を。
呼んだ──!!
その声が低くて、あまりにも柔らかくて——
「……ほら。俺もミッションしなきゃだろ?」
「あ、あぁ!そうだったね……」
バクン、バクン、バクン。
心臓が暴れ馬。
……ムリ……そんな、いきなり名前なんて……っ。
なのに。
……なんでだろ。もう一回、呼ばれたいって思っちゃった。


