初恋リスタート【マンガシナリオ】



〇キャンパス内にある提携幼稚園の保育室にて

萌々子「星明大学からきました、花海萌々子です。よろしくね」

萌々子は、手作りの自己紹介カード(スケッチブックに名前と一緒に花や海、桃の絵などを描いたもの)を手に持ち、子どもたちの前で自己紹介をする。

萌々子(今日から、キャンパス内にある提携幼稚園にて、実習が始まります)

萌々子の他にも、横一列で他の幼保生徒が六人ほど並んでいる。
順番に自己紹介を終えて、自由遊びの時間になる。

萌々子(亜紀ちゃんや和也くんとはグループが分かれちゃったけど、私は猫屋敷くんと同じグループになった。あ、ちなみに猫屋敷くんは、蜂蜜色の髪を黒く染めている。明るい髪色をしている人は、実習中は黒くしなくちゃいけない決まりになってるんだ)
→実習中は、理生は蜂蜜色の髪を黒に染めている。明るい髪色をした他の生徒も同じく。

萌々子(猫屋敷くん、あんな感じで子どもたちとどんな風に接するんだろうって、少し心配してたんだけど……)
→萌々子は、大学内にて、話しかけてくる生徒たちを睨みつけている理生の姿を思い出している。

女児1「お兄ちゃん、抱っこして~」
女児2「えー、私が先だよ~!」
理生「……うん、いいよ。順番にね」

理生は普段の不愛想な姿からは想像もつかないような優しい笑みを浮かべて、子どもたちと接している。女児たちは理生の周りに集まり、メロメロになっている。

萌々子(猫屋敷くんってば、あんなに優しい顔で笑えるんだなぁ)

微笑ましい気持ちでニコニコしながら理生を見ていれば、見つめていたことがバレて(見てんじゃねーよ)と怖い顔で睨まれる。萌々子は慌てて目を逸らし、他の子どもたちと遊び始める。

萌々子(あれ? あの子は……)

隅っこの方で、積み木遊びをしている子どもたちをジッと見つめている男の子がいることに気づく。名前は拓也。
拓也は、萌々子たちが自己紹介をしていた時にもつまらなそうな顔をして部屋の隅の方にいた男の子だと思い出す。

拓也は、積み木遊びをしている園児たちのもとへ近づくと、積み木のお城を足でわざと蹴ってぐちゃぐちゃにする。

園児1「あー、たっくんがお城ぐちゃぐちゃにしたー!」
園児2「拓也くん、やめてよー! せっかく大きなお城つくってたのに!」
拓也「ふん! おれのとおり道にいた、おまえらが悪いんだろ!」

拓也は大声でそう言うと、走ってその場を離れてしまう。

萌々子「だいじょうぶだよ。お姉さんも手伝うから、いっしょにもう一回お城作ろっか」

萌々子は泣いている園児の背中をそっと撫でてあやしながら、拓也が走り去っていった方を心配そうに見つめる。

萌々子(拓也くん、だっけ。どうしたんだろう、急にお城を壊したりして……もしかして拓也くんも、積み木遊びをしたかったのかな?)


〇時が進み、保育室にて

萌々子「あ、拓也くんだよね? 何してるの? よければ一緒に見てもいいかな?」
拓也「……やだね。これはおれの絵本だ! だからぜったいに見せたくない」

一人で絵本を見ていた拓也に萌々子は近づく。
しかし拓也は、あっかんべーをして走って行ってしまう。

その後も萌々子は根気強く拓也に話しかけてみるが、拓也には「あっちいけよな!」など邪険にされ、逃げられてしまう。


〇空き部屋にて・休憩中

萌々子(うーん、疲れたなぁ)

萌々子は実習ノートを書きながら、拓也のことを考える。

萌々子(拓也くん、どうしたら心を開いてくれるんだろう。拓也くんが好きな遊びとか、あとで先生に聞いてみようかなぁ)

考えこんでいる萌々子に、同じグループの女子生徒が話しかけてくる。

幼保女子「お疲れ様! 疲れたねぇ」
萌々子「お疲れ様。ほんとに。皆パワフルだから、鬼ごっことか、ついていくのがやっとだよ」
幼保女子「わかる~。そういえば花海さんさ、あの男の子にすごく話しかけてなかった?」
萌々子「拓也くんのことだよね? うん、何だか放っておけなくて」
幼保女子「あの子、すごく乱暴じゃない? おままごとしてるところにも突然入ってきてさ、遊びをめちゃくちゃにしていったのよ」
萌々子「そうなんだよね。でも、拓也くんにも何か理由があるんじゃないかなって思って。遊びに入りたいけど上手く声を掛けられないとか……」
幼保女子「うーん……。でもさ、そういう子は、むしろ放っておいた方がいいんじゃないかな? ほら、他のお友達に意地悪すれば、大人に構ってもらえると思っちゃうかもしれないし。あえて無視するのも手だと思うけどね。それに見なくちゃいけない子は一人じゃないし、どうせ実習期間の一週間会うだけなんだからさ」
萌々子「……うん。それもそうだよね」

萌々子は女子生徒の言うことも一理あるかもしれないと思いながらも、心がモヤモヤするのを感じる。

萌々子(でも、一人で遊んでる拓也くんの背中が、寂しそうに見えたんだよね。お友達の輪に入りたいけど、上手く話しかけられないんじゃないかな。それなら、何とか手助けしてあげたいって思うんだけど……)

萌々子は再び考え込む。
そこに理生がやってきて、萌々子と目が合う。
難しい顔をしている萌々子に気づくと、眉根を寄せて話しかけてくる。

理生「辛気臭い顔してんじゃねーよ」
萌々子「……私にも、子どもたちに向けてる半分でもいいから、優しくしてほしいなぁ」
理生「無理だろ」
萌々子「即答ですね」
理生「お前に子どもたちと同じくらいの可愛らしさがあったら、考えてやってもいいけどな」
萌々子「うっ……それは無理ですね……」

萌々子は、子どもたちの可愛さには勝てないとわざと落ち込む仕草をする。

理生「……あんま考えすぎんなよ」
萌々子「え?」
理生「お前は難しい顔してるより、へらへらバカみたいに笑ってる方がいいって言ってんだよ」

理生は萌々子の目の前に冷たいココアの缶を置くと、すぐに背を向けて行ってしまう。
らしくないことをして照れている理生の耳は、よく見ると赤くなっている。
理生の不器用な優しさに気づいた萌々子は「猫屋敷くん、ありがとう」とその後ろ姿に向かってお礼を言う。


〇空き部屋にて・休憩中(実習三日目)

萌々子(実習に入って、今日で三日目だ。私はやっぱり拓也くんのことが気になったから、担任の先生に話を聞いてみた。どうやら拓也くんは、つい一週間前に別の幼稚園から転園してきたばかりらしい。それで、まだ上手くお友達と馴染めてないみたい。先生も様子を見ながら声掛けをしているみたいだけど……)

拓也「おれは一人で遊びたいんだよ!」
→話しかける萌々子や担任の先生を突っぱねる拓也の姿を出す。

萌々子(話しかけてみても拒まれちゃうし……やっぱり今は、様子を見ている方がいいのかなぁ)

悩んでいる萌々子の後ろから、和也がやってくる。

和也「萌々。何難しい顔してんだ?」
萌々子「あれ、和也くん? どうして……」
和也「次、俺らのグループの実習時間だからさ。ちょい早く着きすぎたな」

萌々子(実習は、グループごとに時間をずらしておこなわれている。そっか、次は和也くんたちのグループの番なんだ)

和也「で、萌々は何に悩んでるわけ?」
萌々子「……どうして私が悩んでるって分かったの?」
和也「萌々は分かりやすいからなぁ。あと、萌々のことならすぐに気づける自信がある」

和也は自身気な顔で笑う。
萌々子はモヤモヤしていた心が少し晴れていくのを感じて表情を和らげながら、「実はね……」と拓也のことを話す。

萌々子「――でもね、グループの子が言う通りな気もするんだ。あえて声は掛けないで、様子を見ることも大切なのかなぁって。やっぱり、私の考えが間違ってたのかな……」
和也「拓也くんなぁ。俺も何回か遊びに誘ってみたけど、今のところ惨敗してる」
萌々子「そっか」
和也「うーん……でもさ、俺は萌々のそういうところ、すげーなって思うけどな。施設にいた時も、拗ねたり癇癪を起こしたチビたちに、萌々は根気強く付き合ってやってただろ? そんな風に子どもの心に寄り添うのって、すっげー大事なことだと思うんだよね」

→児童養護施設にいた時、萌々子が泣いて怒っている年下の子を抱きしめてなだめている姿を出す。

園長「ごめんなさいね、ちょっといいかしら?」

出入り口から、園長先生が入ってくる。

萌々子「園長先生、お疲れ様です。あの、どうかされましたか?」
園長「ちょうど部屋の前を通りかかった時、あなたたちが話しているのが聞こえてしまったの。勝手にごめんなさいね」

園長先生は、五十代後半くらいの優しそうな女性。
萌々子の顔を見て、ニコリと笑う。

園長「色々と悩んでるみたいね」
萌々子「はい。そうなんです……」
園長「ふふ。あのね、保育観って一人ひとり全然違って、正解だって一つではないの。だから、あなたの考えも、他の子の考えも、どちらかが間違っているなんてことは決してないのよ」
萌々子「一人ひとり、違う……」
園長「えぇ。子どもってね、大人が思っている以上に周りをよく見ているものなのよ。大人の仕草や行動、表情一つひとつなんかをね。だから、どんな形であれ、花海さんが子どものことを思ってしている行動は、思いは、子どもにもきちんと伝わるはずよ」

萌々子は園長先生の言葉に胸を打たれる。

萌々子「……あの! ありがとうございます」
園長「いいえ。こちらこそ、ありがとう。あなたのように子どもと真っ直ぐ向き合える人とは、ぜひ一緒に仕事をしてみたいわね。二年後、就職先なければぜひウチにきてちょうだい。歓迎するわ」

始終優しく穏やかな顔つきの園長先生は、そう言って部屋を出ていく。

萌々子(……よし。それなら――)

萌々子はペンを握って、拓也と距離を縮めるための作戦を考え始める。

そんな萌々子に、和也は眩しいものを見るようなまなざしを向けて微笑みながら、萌々子にも聞こえないような小さな声で「……萌々、頑張れ」と呟いている。