周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

「聖女様、今日は遅刻せずにいらっしゃいましたな」

 王城にある大会議室にエリシアとゼインが到着すると、すでに着席していた有力貴族の一人から嫌みのような言葉が向けられた。エリシアは聖女の力を酷使した翌日、よく寝坊して会議に遅刻しているのだ。

「いつも申し訳ありません」

 エリシアが申し訳なさそうに謝ると、ゼインがエリシアを庇うように口を開く。

「エリシア様は聖女としてのお力を使うことで体力を大きく消耗し、身動きさえ取れないこともあるのです。皆様もご存じのはずかと」
「だが、力を使うといっても聖女の祈りを行ったり、戦地で浄化や回復魔法をつかったりするだけなのでしょう?その程度のことで体力を消耗してしまうのだとしたら、聖女として半人前としか言えませんな。そんなだから、巷ではぐうたら聖女などと言われてしまうのですぞ」

 一人の貴族がそう言うと、他の貴族たちもそうだそうだと言いながらへらへらとあざけ笑っている。それを見てゼインは反論しようとするが、エリシアが小さく首を振りそれを制した。
 それを見て気を良くしたのか、別の貴族が嬉々として口を開く。

「そういえばゼインよ、お前はまだ聖女様の護衛騎士でいるつもりなのか?いい加減、そんなぐうたら聖女の護衛などやめてしまえばよいものを。そうすれば、騎士としての地位ももっと各段にあがるのだぞ」
「おまえの実力は皆わかっている。聖女の護衛などでくすぶっているなどもったいないとあれほど言っているではないか。せっかくの縁談話も断っていると聞くぞ。まだ聖女様に話していなかったのか?」

(え?どういうこと?)

 エリシアは初めて聞く話に驚いてゼインを見上げる。だが、ゼインは渋い顔をしたまま貴族たちを睨みつけたままだ。

「聖女様、そろそろゼインを解放してあげてくださいませんか?あなたのようなぐうたらな聖女様の護衛をしているせいで、ゼインは一人の男として幸せになれないのです。良い縁談話もたくさんあるのに、聖女様の護衛騎士だからという理由ですべて断っているのですよ。ゼインが一生独り身になってしまうとしたら、それはあなたのせいだ。どうか、ゼインを解放し――」
「いい加減にしてください!」

 貴族の話を遮るように、ゼインの怒号が会議室内に鳴り響いた。エリシアも貴族たちも、驚いた顔でゼインを見つめている。

「俺はエリシア様の専属護衛騎士を国王から任命されたときから、一生をエリシア様に捧げると誓ったのです。それは何があっても揺るがぬこと。誰が何と言おうとです。……わかったらこの話はもうやめてください」

 ゼインの地を這うような恐ろしい声が静かに響いた。ゼインからはまるで禍々しく恐ろしい殺気めいたものが発せられ、その場にいた貴族はゼインを恐れ視線をそらし、全員黙り込む。エリシアだけは、不安そうな悲しそうな瞳をゼインへ向けていた。